必要なのは、若い血液ではない

上述の実験では、若いマウスの血液の中に、若返り成分があるのか、あるいは、年老いた血液の中の老化に関連する物質が若い血液と混ざったことで薄まったから、若返りがおこったのかがわかりません。そこで、別のグループが行った実験では、若くも老いてもいないニュートラルなマウスの血液成分(血漿)を混ぜて年老いたマウスと、若いマウスの血液を希釈する、ということが行われました。これによって高齢マウスの健康が改善できれば、老いた血液を薄めるだけで、若返りが実現したことになります。

この実験の結果、驚くことに、高齢マウスの血液を薄めるだけで、若い血液をいれたときと同じくらい、脳の記憶にかかわる海馬の神経幹細胞が増加したり、筋肉に若返り効果があることがわかりました。一方で、若いマウスに同じ処置を施しても、健康に悪影響を及ぼすことはなかったのです。

つまり、若い血液に若返り物質が含まれているのではなく、老化によって増える老化にかんする物質が薄まることが、若返りにつながる可能性がしめされたことになります。これと似た現象は、病気の治療のために、血液中の血漿だけを交換する血漿交換法が実施された人間の血液でも確認されたことが報告されています。

人間の臍帯血の血漿でマウスが若返る

また、別のチームは、人間の若者(19~24歳)、高齢者(61~82歳)、新生児の臍帯血に含まれる血漿を、高齢マウスの血管に注入し、そのマウスに、マウスの記憶力や学習力を測るための迷路実験などを行いました。その結果、若い臍帯血の血漿を4日ごとに2週間与えたマウスの成績が最も優れていて、記憶や空間学習能力を司る海馬の遺伝子が活性化していたことがわかっています。

アメリカでは、これらの研究成果に着想を得たビジネスが数多く立ち上がっていますし、臍帯血を利用したアンチエイジングの他、整形外科や歯科領域で組織再生のために利用されていた多血小板血漿を利用したアンチエイジング(ヴァンパイアフェイシャル)などは日本でも広く利用されています。

アメリカでは、FDAなどが勧告を出した例もあり、人のアンチエイジングに利用するための科学的根拠や正しい方法と期待される効果については、まだまだ解明の余地があるものです。