再稼動が他党や経済界との取引材料に

それどころか、すでに崩壊したはずの「神話」が今、政府と電力会社、原発関連企業、そして、御用学者や御用メディアを通じて再び甦りつつある。「安全は、技術革新と基本設計、制度改革で取り戻せる」「化石燃料の高騰を考えれば、原発のコストはそれほど高くはない」「温暖化防止を考えれば、エネルギーミックスとして原発がやはり必須だ」「原発を止めたら経済が成り立たない」――。

事故から「1年が過ぎた」のではなく、事故が「2年目に入った」のだ。喉元を過ぎてもいないのに、熱さを忘れたフリをするのか(写真は昨年3月18日の福島第一原発)(朝雲新聞社/PANA=写真)

しかし、事故が勃発したら取り返しがつかないのが原発である。日本のような地震列島で完璧な安全対策は不可能だ。復旧や補償に要する途方もない財政出動は、原発に経済合理性がないことを明示している。CO2による地球温暖化説にも根強い異論がある。そもそも、世界のCO2排出量の大半を占める米中両国が温暖化防止にはそっぽを向いており、日本の努力は無駄だと分かっているからこそ、民主党政権も削減ルールから離脱しようとしているのだ。原発を放棄すれば経済が破綻するから再稼働が必要という理屈は、国民に「悲惨な事故のことなど早く忘れてしまえ」と言うに等しい。

ところが、最近になって急にこうした理屈を背景にした物言いが、政権中枢から出始めている。

国内54基中、稼働中の原発数基が4月末までに定期検査で停止すれば、日本の原発は瞬間的に「全停止」となる。その後の「再稼働」について、政権の顔ともいえる面々が「やる方向」であることをちらちらと洩らし始めたのだ。

2月24日、事故直後の官房長官として福島県民をミスリードした枝野幸男経産相が、BS番組で「今の電力需給状況では稼働させていただく必要がある」と述べ、再稼働がなければ電気料金は「5%とか10%とか15%とかいうレベルで上がる」と発言。3月に入って早々、今度は細野豪志環境省兼原発事故担当相も「安全性が確保できたものについて再稼働は必要だと思う」と発言(4日付、産経新聞)。その前日には、野田佳彦首相が「再稼働を政治判断した時には、政府が地元自治体を説得する」との意向を海外メディアに明言した。

「今、水面下で政界再編の駆け引きが進行中です。再稼働は他党や経済界との取引材料です」(野党議員秘書)。

事実であれば、とんでもない話だ。

(写真=朝雲新聞社/PANA)