「ウォールストリート・ジャーナル」紙による「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」という調査がある。2008年に1位に選ばれたゲイリー・ハメルは『コア・コンピタンス経営』(1)の著者。現実から普遍を紡ぐというアプローチにより、コア・コンピテンシー=中核企業力(独自の強み)という概念を提示した。
これは、まずは理論ありきとする分析派へのアンチテーゼだ。分析派の代表がハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーターだ。WSJ紙の同調査で、02年の1位でもある。ポーターら分析派の根底には、経営はサイエンスであるとする考え方がある。それに対し、経営はアートであるとするのがハメルらの基本姿勢だ。
08年に9位のH・ミンツバーグも、ハメルと同じスタンスだ。『MBAが会社を滅ぼす』(3)でMBA教育を批判し、経営とはサイエンスとアート、クラフトとの適度なブレンドであり、唯一絶対の方法はないと説いた。ほかにランクインした思想家も、多くはクリエーティビティや人間の主観、アートを重視する立場をとっている。
このことからも、近年の経営学における関心が、機械的な意思決定=ディシジョン・メーキングから、時間・場所・人との関係性の中で都度下される判断=ジャッジメントへと移っていることは明らかだ。今回は、直近のトレンドがわかる著書のみを選んだ。