プーチンが度々口にする「ネオナチ」の意味するもの

そして、ゼレンスキー政権がキエフから去ったなら、プーチン大統領はウクライナのナショナリズムを解体していく。プーチン大統領が度々口にする「ウクライナの非ナチ化」です。

ステパン・バンデラの肖像(写真=著者不明/PD-Poland/Wikimedia Commons)
ステパン・バンデラの肖像(写真=著者不明/PD-Poland/Wikimedia Commons

「ウクライナの非ナチ化」という言葉が、日本人にはわかりにくいと思うので、説明しておきましょう。ウクライナ民族解放運動の指導者で、ステパン・バンデラ(1909~1959年)という人がいました。バンデラは第2次大戦中に、ポーランドとウクライナに侵攻したナチス・ドイツと提携し、ナチス・ドイツ軍の指揮下に入ってソ連軍と戦い、ソ連からウクライナの独立を図った時期があります。しかし、ウクライナ独立の約束をナチスは守らず、バンデラはナチス占領下でウクライナ独立を宣言したために逮捕されるのですが、反ユダヤ主義者でもあり、ユダヤ人虐殺に関与しています。

ソ連時代には、「ナチスの協力者」「過激な民族主義者」「テロリスト」という意味で憎悪の対象として教えられていましたが、近年のウクライナでは「独立のために戦った英雄」として再評価され、2016年にはキエフの中心にあった「モスクワ通り」の名前は「バンデラ通り」に変わりました。

プーチン大統領はこうした動きを指して「ネオナチ」と言い、ウクライナのナショナリズムを解体していこうと考えているのです。

独自情報で見えた、プーチンの構想する「戦後のウクライナ」の形

では、どのように解体していくのか。それは教育と非武装化です。

前回も述べたように、ロシアの狙いはウクライナを傀儡国家に仕立てることではありません。こうした危機に瀕すると、どんな国でも「これ以上戦うのは無益だ。民衆の犠牲を増やさないために、相手国と折衝しなくてはいけない。自分は裏切り者と呼ばれても構わない」と考える人が、必ず政権の内側から出てきます。プーチン大統領はそうした「傀儡ではないが、融和的な人物」を擁立して、その下に軍事顧問や、それよりさらに多い教育顧問を送り込んでくるでしょう。

思い起こしてほしいのは、第2次世界大戦後のGHQによる日本の統治です。戦後すぐにGHQの指令で教育勅語が廃止され、小学校の教科書で占領政策にふさわしくない部分が黒塗りにされました。その後、1947年に教育基本法(旧法)が成立し、教育が民主化されました。また、軍隊を解体し、海上保安機構と警察以外は軍事力を持たせないようにしました。

モスクワの与党幹部から得た情報によると、ロシアはいま、アメリカがドイツと日本で行った戦後処理について、深く研究しています。同じことを、“戦後”のウクライナで行おうとしているのです。

プーチン大統領は、3月6日に行われたトルコのエルドアン大統領との電話会談で、ウクライナへの軍事侵攻は「予定通りだ」と強調しましたが、プーチン大統領が口にした「予定通り」という言葉は、戦闘のみでなく、おそらく、その先の戦後処理においてウクライナの国の形を変える計画をも指しているのだと思います。