一方、ダイナミック・センターコアから生まれる気持ちや考えは、神経核がお互いに連合することによって機能するところから、「違いを認めて共に生きる」という組織連合由来の本能を生み出す。人間の「こころ」はこの3つの本能を基盤に生まれ、気持ちや考えによって変化する仕組みになっている。

ダイナミック・センターコアの機能にはいくつかのクセがある。そのひとつが、途中でゴールと思ったり、「勝った」という気持ちが生まれると自己報酬神経群が「もう終わった」と判断してしまうクセだ。

皆さんは、北京五輪の男子100メートル走で、金メダルの有力候補と言われたジャマイカのアサファ・パウエル選手のことをご記憶だろうか。パウエルは元世界記録(9.74秒)保持者であり、予選を9.91秒という好タイムで通過している。決勝では、75メートル地点まで、優勝した選手よりも先を走っていた。ところが最後の25メートルで失速してしまい、結果は5位。決勝のタイムは9.95秒とまったく振るわなかった。

パウエルは、レース直後のインタビューで興味深い発言をしている。「75メートルで勝ったと思った瞬間に、隣の選手の足が前に出るのが見えた」。

ポイントは、「勝ったと思った」という言葉にある。こうしたメッセージを受け取った瞬間に、パウエルの脳にとってレースは終わっていたのだ。

これは、脳の「自分を守りたい」という本能、自己保存本能のなせるわざだ。勝ち負けにこだわると、この本能が強く働いて、勝ったと思った瞬間、脳の機能を低下させてしまう。試験に合格したとたん、勉強した内容をきれいさっぱり忘れてしまうのも同じことである。

つまり、学習効果を高めたいと考えているのなら、ひとまず合否や成果を棚上げして、合格の仕方、達成の仕方にこだわったほうがいいのだ。

(構成=山田清機 撮影=小倉和徳)