まるで子供のケンカのような20分間

維新の松井一郎代表(大阪市長)が「どういう状況であろうと言ってはならないヘイトスピーチ」というのは、こうした経緯を踏まえたものだろう。他方で、龍谷大学法学部の金尚均教授は、ジャーナリストの安田菜津紀氏の取材に対して「これはヘイトスピーチではありません」と断言している。表現の問題として押し切るのは、無理筋だといえる。

馬場氏の訪問を待ち受けたように先制パンチを浴びせたのは菅氏の方だった。

まず菅氏の方から「質問状」を手渡した。内容は「橋下氏への投稿について、なぜ維新が抗議文を出したのか。橋下氏と維新はどういう関係なのか」というもので、謝罪・撤回する考えはないことを明言した。

馬場氏は「現在、橋下氏と維新は全く関係がない」「橋下氏は党を立ち上げたチャーターメンバーである事実は歴史に残っている」などと答えた。

途中、菅氏が 馬場伸幸のぶゆきを「しんこう」とわざと(?)読み間違えると、仕返しとばかり馬場氏も菅氏を「すが」と言い間違える。さらに馬場氏は、菅氏がツイートで「大阪」を「大坂」と書き間違えている箇所があることを指摘し「もうちょっと大阪を勉強した方がいい」と言い放った。まるで子供のケンカのような20分間だった。

大阪城
写真=iStock.com/fotoVoyager
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菅氏の土俵に乗ってしまった維新

今回の問題の本質は、橋下氏をヒトラーになぞらえた表現の是非であることは言うまでもない。しかし菅氏はその前段として「橋下氏と維新の関係はどうなのか。関係ないのであればなぜ維新が私に抗議するのか」と問い続けた。

2人の論戦の優劣を判定するのは難しいが、強いて言えば馬場氏は、菅氏のつくった土俵に乗って議論させられていた。「ヒトラー発言」の是非の議論は深まらなかった。そして橋下氏と維新が「関係ない」といいながら「チャーターメンバーであるのは事実」など「関係ないと言ったり、あると言ったり、それは無理ですよ。話が通らない」(菅氏)という印象を与えてしまった。

菅氏のツイートは普通に読めば橋下氏だけでなく維新そのものもヒトラーに似ていると主張している。だから維新が抗議しても不思議はない。馬場氏もそのことは訴えてはいるのだが、菅氏が巧みにすり抜けた形だ。今回の問題で菅氏の姿を久しぶりに見た人も少なくないだろう。75歳となった菅氏は、頭髪も薄くなり老いは隠せない。ただ老練かつ巧みな語りは往年の切れ味が残っている。