読書の習慣を確立したアリストテレスの功績

不思議なのは、人生がうまくいっているときは、あまり本が視界に入ってこないことです。むしろ、うまくいかなかったとき、失敗したとき、目の前が真っ暗になったときに本と出会います。

ディオゲネス・ラエルティオスの名著『ギリシア哲学者列伝』には、「教養は、順境にあっては飾りであり、逆境にあっては避難所である」という古代ギリシアの哲学者アリストテレスの言葉が書きとめられています。古代言語研究の第一人者、フレデリック・ジョージ・ケニオンの『古代の書物』によれば、このアリストテレスこそが本を体系立てて活用した蔵書家の始祖であり、「アリストテレースと共にギリシア世界は口頭の教えより読書の習慣へと移った」と記されています。

クラシックな書籍
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かいつまんでいえば、私たちはアリストテレスのおかげで読書という習慣を手に入れることができ、アリストテレスは収集した本を読むことによって知の体系を紡ぎだし、世界を照らしだしたのです。ソクラテス、プラトン、アリストテレスといった古代ギリシアの哲学者の言葉が今も古びないのは、人間の文化の歴史がそこから今につながっているからだと思います。

本屋で手に取る一冊は人類の歴史とつながっている

本には世界を変える力があります。何も入っていない本棚に一冊一冊本を並べ、本棚の前でお客様と話すうちにわかったことが2つありました。

どれほど恵まれた人生を歩んでいるように見える人でも「避難所」が必要であること。

そして、本は困難と向きあった人に新しい扉を開いてくれる、ということでした。

作家ヴァージニア・ウルフは『自分ひとりの部屋』で、

傑作というのは、それのみで、孤独の中で誕生するわけではありません。何年もかけてみんなで考えた結果、人びとが一体となって考えた結果として誕生します。ゆえに一つの声の背後には集団の経験があります。

と私たちが本屋で手に取る一冊が、実は人類の歴史と地下水脈のようにつながっているのだと教えてくれました。ウルフがいうように、「シェイクスピアはマーロウがいなかったら、マーロウはチョーサーがいなかったら、チョーサーは無名の詩人たちが道を拓き、のままの粗野な言葉づかいを直していなかったら書けなかった」のです。