根強い「男尊女卑」も混在
中国の家族のカタチはまさにモザイク模様だ。中国が男女平等の原則に立ち、妻が夫から独立した姓を名乗るようになった「先進性」の隣には、実は非常に根強い「男尊女卑」の伝統も混在している。
もともと、中国の人々は1000年以上にわたり儒教思想と父系家族主義の風習に縛られてきた。儒学の祖、孔子は三従・七去の教えによって夫婦関係を規定した。
三従の教えとは「女性は幼いうちは父に、嫁したら夫に、老いれば子に従え」というもので、日本でも有名だ。七去は儒教の嫁ルールで、「夫の親に従わない女、子を産まない女、嫉妬する女、ふしだらな女、悪い病気をもつ女、多言な女、物を盗む女は夫の家から離縁を言い渡されても仕方がない」と説く。女性の人格を完全に否定するこれらの儒教思想は父系家族制度とともに中国社会に深く根付いてきた。
また、儒教と並んで重要だったのが父系家族制度だ。中国の家族制度は、父系の子孫の存続を目的としていた。中国の社会学・人類学の父とよばれる費孝通(フェイ・シヤオトン)はそんな社会を「上に祖先、下に子孫がいて、誰もが上下左右につながる輪っかの一つとして生きてきた社会だった」と指摘する。祖先の加護を受けて生き、死後は子孫が線香を絶やさないことが人の成功を意味したという。
そのため、中国では父系家族の継承が何よりも重要とされ、「(男子の)子孫を絶やすのは三つの親不孝の中でも最大」と言い伝えられ、固く信じられてきた。
重要なのは父方の血縁
こうした父系家族重視の伝統は21世紀の今日も注意深く見回すと発見できる。面白いので、親戚一同のポジションを示す中国語の語彙の豊かさを見てみよう。日本語にはない呼称がざっと数えても20以上ある。血統へのこだわりの強さと大家族の人間関係の複雑さが一目瞭然でわかる。
例えば、日本語や英語では「おばあちゃん」や「グランドマザー」の一言で終わりだが、中国語では父方の祖母は「ナイナイ(奶奶)」と呼ぶ。一方で、母方の祖母は外の婆と書いて「外婆(ワイポー)」、または「ラオラオ(姥姥)」と呼び、両者をはっきり区別する。
同様に従妹だけでも父方には、重要な屋内を意味する「堂~」を被せ、母方は、表面を意味する「表~」を兄、弟、姉、妹に足して8種類に細かく分けて呼ぶ。父方こそが家の中の重要な仲間で、母方は付き合い上の親戚という温度差が漢字からも伝わってくるだろう。重要なのは父方の血縁だけなのだ。