欧米でさかんなフィギュアスケートは、文化が根付いていない日本には不利な競技とされてきた。だが近年、オリンピックで日本人選手が相次いでメダルを獲得するなど、状況は一変している。なぜ日本は強くなったのか。プロフィギュアスケーターの佐藤有香さんが解説する――。
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実は日本人は「恵まれた骨格」を持っている

私が女子シングルの選手だった80年代から現在にかけて、日本でフィギュアスケートが根付き、多くの方に愛されるスポーツになっていったことはとても嬉しく思っています。日本選手が世界の舞台で対等に戦えるようになった理由は「日本人のポテンシャル」と「日本のフィギュアスケートの流れ」の中にあると考えます。

「日本人のポテンシャル」のひとつとして「恵まれた骨格」があります。フィギュアスケートは氷の上でスピン、ステップ、ジャンプ等の要素を行う競技。その中で重要なのは「骨格が小さく、細身でコンパクトに回転できること」ではないでしょうか。得点が高いジャンプでは回転の際に軸が安定していて小さい方が跳びやすいですし、回転速度も速く跳べます。スピンも、大きな筋肉がついてしまうと柔軟性に欠けてしまうため、男性でも華奢な方が取り組みやすいのです。

一方で、アイスダンスやペアスケーティングなどのペア競技では、男性が相手を持ち上げるリフト等の技もあるため、体格が大きく筋肉がついている方が有利といえます。そのため、日本人がペア競技で世界と対等に戦うには、まず筋肉をつけることから始めることになります。

もうひとつは「努力をし続けられるメンタリティ」です。私は現役を引退してからアメリカに拠点を置いているのでより如実に感じますが、日本人の真面目で努力ができるというメンタリティは、地道なトレーニングが必要なフィギュアスケートにおいては有利に働きます。

「欧米出身のジャッジ」にアピールしなければならない

こういった日本人のポテンシャルがある一方で、私が現役選手だった80年代~90年代は、フィギュアスケートはまだ「欧米のスポーツ」でした。北米で開催される試合に行っても、欧米の選手たちがコーチ・スポーツドクター・サポーター、そして多くの選手たちから成る大きなチームで出場しているのに対して、日本選手は私一人でポツンとしていたのを記憶しています。今となっては日本選手が出場するのが当たり前という雰囲気で、日本人のファンも多く遠征しますが、当時は全くそんなことはありませんでした。

また、当時の審判員の多くは欧米の方でした。私は試合の度に「どうすれば欧米出身のジャッジに効果的にアピールでき、評価してもらえるか?」を考え、16歳の頃カナダに留学しトレーニングを開始。現地では選曲や振付に対して自分の案を提案しても、「何を考えているの?」と言われることもあり、北米の指導陣や振付師が勧める方針を受け入れることからスタートしたのです。そういった出来事の一つひとつから、評価されるようなプログラム作りや確かな技術を磨いていきました。