実は僕、ものすごく運が悪い人間なんです。「運」とは、自分の知識や技術ではどうにもできないものだと思います。卓球も、対戦相手の組み合わせや、試合時間の決定なども完全に運に左右されます。練習でどうにかなることではありません。試合時間が遅延することも、結構な頻度で起こります。

金メダル

試合中にも、勝負の流れを一気に変えてしまうようなアクシデントがよく起こります。例えば、ボールが相手コートの台の角にあたる「エッジボール」や、ネットにボールが触れてから相手のコートに入る「ネットイン」。これらは偶発的に起こるもので、受けたほうはほとんど返球できません。このようなラッキーな出来事が試合相手と5対5の割合で起こるならいい。しかし運の悪い僕の場合、自分は3で相手が7。7割のラッキーが起こる相手はいいですよね。天運に恵まれているんです。なりたくてなれるものではありません。

試合中「空気が変わったな」と思う瞬間もあります。例えば、自分がリードしているのに、急に「やばいかも」という空気を察知したりするんです。普通だったら95%入るボールなのに2本連続でミスしたり、点を取った後に審判が「サーブがネットインだから、今の無効だよ」と言い出すなど、「そんなことある?」という不運が続くんです。それはいきなりやってくる。その空気になった瞬間に、どうやっても点が取れなくなる。本当に。そのままやったら、絶対に勝てないと、経験上わかります。それでも、もがき続けるしかありません。

オリンピックの決勝でもありました。最終セットを9対3でリードしていたのに、向こうに1点取られたくらいから、そういう感覚に陥りました。9対5まで巻き返されて「あ、これ絶対負けるわ」という嫌な空気を感じていました。しかし、そのあとに伊藤美誠選手が運よくネットインしてくれて、また空気が変わりました。僕にも決めるチャンスが回ってきて、勝利を引き寄せることができた。非常に幸運な出来事でした。彼女とペアでなければ負けていたと思いますね。

ネガティブな僕が前向きでいられるワケ

思い起こせば、2019年は本当についていなかった。4大会連続の五輪シングルス出場は叶わず、非常に悔しい思いをしました。ただ、今回シングルスで出ていたら、混合ダブルスで金メダルを取れなかったかもしれません。めぐり合わせとは不思議なものです。

以前あまりにも不運が続いたときに、岩崎恭子さん(バルセロナオリンピック200メートル平泳ぎ金メダリスト)に運気アップの方法を聞いたことがあります。岩崎さんからは「ゴミ拾いをするといいよ」と言われました。意外でしたが、きっと日頃の行いが運に直結するということでしょう。早速、翌日から僕は練習場のゴミ拾いを始めました。こうした願掛けは好きなほうで、月に1回、僕は神奈川県の川崎大師に参拝しています。オリンピック出場時の願いごとは「すべて自分の思い通りになりますように」。対戦相手とのラッキー比率の7対3も、せめて5対5になってくれればと強く願いました。