「過去は、意識的に自分のなかから消し去ってしまえ」

わたしは過去を振り返らないようにして生きてきた。物心ついてから現在に至るまで、あらゆる記憶を消してきたのが、わたしの歴史だった。

いつまでも昨日にとらわれていたら、今日の旅立ちはできない。数え切れないほどリングに上がっているうちに、自然と身についた習慣だった。

目の前には昨日の敵ではなく、今日の敵がいる。気持ちを切り替えて新たな闘いに臨まなければならないのだ。ある試合で強烈なショックを受けたときに、その痛みや恐怖の記憶が残っていたら、次の試合に臨むことはできないだろう。

いつまでも未練がましく、過ぎ去ってしまった恋人のことを思い続けていても、そこからはなにも生まれない。つらい過去は意識的に消し去ってしまわなければ、新しい出会いがやってくるはずもない。

わたしの場合は、つらい過去だけではなく、楽しい過去さえも消し去るように努めてきた。過去の楽しい体験が忘れられずに、ぬるま湯につかったままでいるのも嫌だったし、過去の成功体験にとらわれて、新しい一歩を踏み出す勇気が持てなくなるのも嫌だったからだ。

過去に縛られずに、いまを生きる。そのほうが刺激もあるし、昨日とは違う自分にもなれるはずだ。過去に縛られずに生きてみなよ。

「限界は簡単に突破できる」

誰だって弱気になるときがある。わたしだって常に元気と勇気に満ち溢れているわけではない。だけど、はじめは「絶対に無理だな」と思っていたことが、気がつくと無事に終わっていたり、成功していたりすることを何度も経験してきた。

パキスタンで活躍するアントニオ猪木さん
写真提供=コーラルゼット

人間には、自分でも気づいていない莫大なエネルギーがあるのだろう。

ある人にとっては「もう限界だ」という事態でも、別の人にとっては「些細なことだ」と捉えられるような出来事かもしれない。

もちろん、その逆もある。他人から見たら「大変な事態ですね」と同情される事態であっても、当の本人は「どうってことねぇよ」ということもあるだろう。

そう考えると、人間には「限界」というものなどないのかもしれない。

もしあるとすれば、「限界」という言葉を口にする弱い自分なのだろう。

新しいことを思いついて、ワクワクしながら行動に移すと、事前の段階では見えていなかった難問が目の前に現れてくる。そのたびに、「もう限界だ」と思っても、気づけば無事に終わっている。

人によって、時代によって、人間の限界というものは流動的に変化する。やっぱり、限界などありはしないんだ。

弱い自分に打ち克つ勇気さえあれば、限界は簡単に突破できる。