リビアの当面の課題は新政府の枠組みでしょう。反体制派、つまり国民評議会の中には、旧政権の中で閣僚を務めた人もいれば冷遇された人もいます。また、主なものだけで30はある部族社会のリビアで、どう部族間のバランスをとるのか。外国留学で国際感覚を持つ人材をどう活用していくのか。イスラム原理主義の部隊が反体制側で積極的に戦いましたが、アルカイダに連なると噂されています。このように部族社会との折り合いやイスラム原理主義者の扱いをどうするのか、大きなポイントです。政権打倒で一致はしたけれど、次の図式は描けていないのです。

さらに、チュニジアやエジプトには少なくとも議会があり政党も複数ありましたが、リビアには憲法もきちんと機能する議会もなく、報道の自由もない状態でしたから、民主主義の土台からつくる必要があります。その点、今回私が会った3人は、次の大統領は民主的な選挙で選び、リビアはひとつ、首都はトリポリと明言しています。また最近では新聞が数多く発行され、メディアの言論の自由は確保されているようです。暫定政府は新しい国をつくるうえで、法の下にあるという「ルール・オブ・ロウ」「デモクラシーと選挙」、そして「人権」の三本の柱をきちんと確立してほしいと思います。

リビアは、日本に対して大変な憧れと頼りたいという強い思いがあります。70年代から90年代にかけて日本企業がリビアの通信インフラの整備や都市建設などに関わってきました。ところが「UTA航空機爆破事件」や「パンナム機爆破事件」、核開発疑惑などによりリビアは国連の制裁措置を受けた時期があります。すると日本企業はそれを「棒を呑んだように」まじめに守りました。そのため通信インフラのメンテナンスはもとより新たな受注ができず、韓国企業などに取って代わられています。外国企業は表向き制裁を守りながら、ビジネスではしっかりつながっていました。

例えばアメリカ企業ならカナダの子会社を経由させるなどの芸当を当たり前のようにやっています。カダフィ政権には、「日本がもっとも厳しく制裁を守ったのだから、一番のアンチリビアだよね」と嫌みを言われたことがあります。国連制裁を破れとは言わないまでも各国が様々な方法で接触しているのは事実。それが、国際政治の現実であり、機微ともいえます。

日本に対して国民評議会の人たちは、カダフィ政権下で契約などが行われた日本の権益について新体制下での保全に理解を示してくれました。同時に日本の対応が遅いという苦言も聞きました。政権交代後、日本の外交不在が長く続いています。多くはのぞめませんが、新内閣には迅速な対応で国益のために働いてほしいと祈ります。
(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(構成=吉田茂人 写真=小池百合子事務所)