養ってほしいなんて思っていないのに
「笛美ちゃんはお金がかかりそう」とよく言われることも気になりました。きっと私はお給料がいいから生活水準も高く、男性にとって養うのは難しいのだと心配されていたのだと思います。男性に自分を養ってほしいなんて、これっぽっちも思っていないのに、なぜか彼らは私を養う前提で話をしてくるのです。海外旅行、ブランド品、外食などのライフスタイルをひけらかして男性たちを引かせないよう、できるだけ堅実な女に見られるよう、そういう話を隠したり、わからないフリをすることもありました。LINEの連絡先だけは増えていくけど、本当のつながりと呼べるものはありませんでした。
何の予定もない土日に目が覚めると、激しい自己嫌悪に襲われるのでした。若さがなくなったら私には価値がないのに。たとえどんな仕事や内面を持っていたとしても、結婚していないだけで惨めな未来が待っているのに、何をしているんだろう? 生理のたびに自分が子供を産むチャンスが減ってくように感じました。
誰か私を見つけてほしい
デパートのコスメ売り場に行ったとき、BAのお姉さんがとても綺麗にメイクをしてくれました。
「すごーい、誘拐されそう!」
お姉さんに言われて鏡を見ると、まるで子鹿みたいな丸い瞳、ピンクのほっぺ、うるんだ唇の自分がいました。でもせっかくこんなにメイクをしても、本当の私は時限爆弾を抱えた、男がドン引きする高学歴バリキャリ女。誰も見向きもしてくれない。無人の部屋に飾られた満開のお花みたい。もったいない。自分がもったいない。
誰か私を見つけてほしい。この高学歴バリキャリの鎧の下にいる「普通の女の子」の私に気づいてほしい。
私はひとりで生きていけるだけの収入があり、お金のために結婚をする必要はありませんでした。セルフイメージの向上のため、「行き遅れた女」と思われないために、結婚したかったのだと思います。成功したいというよりは、失敗したくなかった。
「笛美さんは私みたいにならないでね」
ずっと独身だった中学時代の恩師にもそう言われました。先生は人生を楽しんでいるように見えたので、その予想外の言葉はずっと自分の中に未消化のまま残っていました。
受験して、就職して、結婚して、子供を産む。それが真っ当な人間の進む正解ルートだと、いつの間にか学習していたのだと思います。結婚しない「オールドミス」でいることは、自分の仕事での評判も落としてしまうのではないかと恐れていました。
結婚するのは誰でもいいわけではなく、そこそこの学歴と年収と見た目が必要だということも早いうちから気づいていました。でも社会的ステータスとか関係なく、純粋に誰かを愛したい気持ちもありました。