感染拡大防止のため、政府は緊急事態宣言を出しているが、人の流れはあまり減っていない。なぜなのか。筑波大学の原田隆之教授は「その理由は政府への不信感だけではない。コロナに強い不安を感じるがゆえに、自分に都合の悪い情報を遮断してしまう人たちがいるからだ」という――。
信頼を裏切る
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「不要不急かどうかは本人が決めることだ」

新型コロナウイルス感染症対策担当の西村大臣が、お盆休み直前の8月10日の記者会見で、「旅行・帰省を控えてほしい」「帰省をして親族で集まるとか、同窓会で同級生が集まるとか、絶対に避けていただきたい」と強い調子で述べた。

一方、同日丸川珠代五輪担当大臣は、「銀ブラ」をしていたバッハIOC会長の行動について尋ねられ、「不要不急かどうかは本人が決めることだ」との見解を示した。

教科書に載せてもよいくらいの見事なダブルスタンダードである。

国民には不要不急の外出や移動の自粛を強く求め、バッハ会長の外出は不問に付そうとする。自国民に対する扱いと「五輪貴族」に対する扱いの差をこれでもかというほど見せられたとき、政府に対して不信や不満を抱くなというほうが無理だろう。

信頼感が全くない政府からのメッセージ

今年4月末、私はワクチン接種意図とそれに関連する心理的要因を探索するために調査を行った(Yahoo!ニュース コロナのワクチン忌避、20代に多い傾向「接種したくない」人の心理とは?)。

そこでわかったことの1つは、コロナについて発信しているさまざまな機関(政府、厚労省、TVの専門家、医師会、分科会、知事)のなかで、政府への信頼感が一番低かったということだ。それから4カ月経ったいま、信頼感はもっと低下しているだろう。信頼されていない政府からのメッセージを誰がまともに受け取るだろうか。そして、誰がそれに従うだろうか。

災害級の感染爆発という状況にあっても、国民にその危機感が共有されていないのは、何をおいても政府の側にその責任がある。信頼を取り戻すのは容易なことではないが、国民に無理を求める以上は、いま一度襟を正して真摯に国民と向き合う必要があるだろう。