「創る広報」は、あえて他社を推薦する

「1社でニュースにならないなら、3社で一緒に売り込んだらいかがですか?」

私は最近、みなさんにこのようにお勧めしています。今までの広報の考え方では、他社のことを自社の企画書の中で取り上げるなんてことはあり得ませんし、こんなやり方を推奨する人もいなかったでしょう。複数の会社でネタを持ち寄り、ストーリーを用意して、一緒にニュースをメディアに売り込む方法は、今までにない新しい創る広報です。

前述したように、マスコミはストレートニュースでない限り、一つの会社の事例だけで記事や番組をつくることは、あまりありません。もし記者がその事例を取り上げようと思った場合、同じ切り口で他社が似たようなことをしていないかを調べ、三つくらいの事例をセットにして記事や番組にしています。

ですから、もし複数社で一緒にニュースを売り込めば、記者としてはほかの事例を調べる手間が省けます。そうなれば、メディアに取り上げられる可能性はグッと高くなるのです。

たとえば、私は以前、席からサクラの名所が見えたり、店内にサクラを植樹したり、中庭にあるサクラを店内から愛でられる、屋内で食事をしながらお花見が楽しめる飲食店をPRしたいと考えていました。しかし、「屋内でお花見が楽しめる飲食店」というだけでは、ニュースとしてはいまいちインパクトに欠け、メディアが取り上げるとは思えません。

そこで、サクラの開花が早まり、花粉症とお花見の時期が重なってしまったニュースをヒントに、「今年は、花粉症の人でも快適にお花見が楽しめる商品・サービスに注目」という企画を考えました。

体の外で花粉症を防ぐためのグッズとして、新型の花粉症対策眼鏡を発売したメーカーや、反対に体の中から花粉症を防ぐ、新しい飲み薬や食品を売り出した製薬会社や食品メーカーを探し、そういった企業の商品と一緒にしてニュースを売り込んだのです。

今後の主流は「ネタを共有する」広報スタイル

このように他社を一緒に紹介してしまうと、自分たちが損をすると思う方もいるかもしれません。

私はあくまでも、飲食店を取り上げてもらうのを目標にニュースを売り込んでいます。きちんと自分のPRしたいものにも脚光が当たるストーリーをつくっておけば、必ず自社に取材が来ます。それもメインで取り上げてもらえるかもしれません。万が一扱いが小さくても、取り上げてもらえただけで効果は十分あるでしょう。

カーシェアリングやルームシェアのように、これからはみなでシェアするのが当たり前になってくるのではないでしょうか。広報担当者も、PRネタをシェアして、複数の会社が一緒にニュースを売り込む手法が、今後の主流になるのではないかと考えています。

栗田 朋一(くりた・ともかず)
PRacademy代表取締役

1971年、埼玉県浦和市(現・さいたま市)生まれ。明治学院大学社会学部卒。歴史テーマパーク「日光江戸村」を運営する大新東で広報を担当し、江戸村及びグループ会社全体のコーポレートPRを手がける。2003年に電通パブリックリレーションズに入社。その後、07年にぐるなびに転職し、広報グループ長を務める。現在は、自身で立ち上げたPRacademyの代表取締役を務める。著書に、『現場の担当者2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(朝日新聞出版)がある。