持続的なインフレが起きる可能性は高まっている

バイデン政権はインフラ投資を実施することも公約に掲げている。インフラ投資は雇用の回復を支え、個人消費のモメンタム(勢い)を強める要因になり得る。少し長めの目線で考えると、米国では想定されるよりも長い期間にわたって需要が供給を上回り、物価が押し上げられる可能性がある。それに加えて、中長期的な展開として、財政支出が増加し続けた場合には、どこかのタイミングで財政への懸念が高まり、通貨価値は減価し始めるだろう。その結果、インフレの進行には拍車がかかるだろう。

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時間軸を分けて考えると、短期間で米国の物価が急伸する可能性は抑えられている。しかし、半年、あるいは1年程度のタームで考えると、徐々に米国経済ではインフレ進行の兆しが鮮明となり、FRBが重視する2.5%程度のインフレ率が達成される展開は排除できない。今回の経済対策の成立によって、米国では一時的ではなく、持続的なインフレ発生の可能性が高まったとみる。

低金利環境やワクチンへの期待で投資資金がシフト

年初来の米国の金利や株価の推移を考えると、粘り強いインフレ進行を警戒する投資家は、まだ多くはない。3月に入り、米国の長期金利(10年国債の流通利回り)は1.6%程度まで上昇した後、しっかりと低下した。米10年国債入札を見ても、需要は安定している。3月10日の長期金利の水準は1.51%だ。理論的に長期金利は、潜在成長率、期待インフレ率、およびリスクプレミアムを合計することによって求められる。昨年12月時点でFRBは米国の潜在成長率を1.8%としている。

足許、期待インフレ率(10年のブレークイーブン・インフレ率)は2.2%程度だ。リスクプレミアムをゼロとした場合、長期金利の理論値は4.0%だ。米国債の投資家の一部はインフレ懸念を意識しつつあるが、過半数の投資家が本格的に物価上昇を懸念するには至っていないといえる。

それが、低金利環境の継続期待の根底にある。それに加えて、ワクチン接種による経済正常化や財政政策への期待から、米株式市場ではIT先端銘柄から既存産業へ、投資資金がシフトしている。3月10日、ナスダック総合指数が下落した一方で、ニューヨークダウ工業株30種平均株価が上昇したのはその表れだ。