2011年3月、東日本大震災で卒業式が中止になった立教新座高校の渡辺憲司校長(当時)は、高校のHPに卒業生向けのメッセージを記した。そのメッセージは、SNSで拡散され、80万回以上のアクセスを記録、多くの人の心を打った。「時に孤独を直視せよ。海原の前に一人立て。自分の夢が何であるか。海に向かって問え」。コロナ禍の今、全文をあらためて掲載する――。

※本稿は、渡辺憲司『生きるために本当に大切なこと』(角川文庫)の一部を再編集したものです。

人のいない教室
写真=iStock.com/Yue_
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目に浮かぶのは、憎悪と嫌悪の海

卒業式を中止した立教新座高校3年生諸君へ。

諸君らの研鑽の結果が、卒業の時を迎えた。その努力に、本校教職員を代表して心より祝意を述べる。

また、今日までの諸君らを支えてくれた多くの人々に、生徒諸君とともに感謝を申し上げる。

とりわけ、強く、大きく、本校の教育を支えてくれた保護者の皆さんに、祝意を申し上げるとともに、心からの御礼を申し上げたい。

未来に向かう晴れやかなこの時に、諸君に向かって小さなメッセージを残しておきたい。

このメッセージに、2週間前、「時に海を見よ」題し、配布予定の学校便りにも掲載した。その時私の脳裏に浮かんだ海は、真っ青な大海原であった。しかし、今、私の目に浮かぶのは、津波になって荒れ狂い、濁流と化し、数多の人命を奪い、憎んでも憎みきれない憎悪と嫌悪の海である。これから述べることは、あまりに甘く現実と離れた浪漫的まやかしに思えるかもしれない。私は躊躇した。しかし、私は今繰り広げられる悲惨な現実を前にして、どうしても以下のことを述べておきたいと思う。私はこのささやかなメッセージを続けることにした。