2兆円突破で勢いに乗る最中に「コロナ禍」で需要消失

一方のANA。「公的資金を注入してもらい、さらには税金をまけてもらっている。公平な競争になっていない」として政府に「8.10ペーパー」(国土交通省が2012年8月10日に出した「日本航空の企業再生への対応について」と題した文書)を認めさせ、2017年3月末までJALに新規就航や投資などを制限させた。

世界初の総2階建て旅客機エアバスA380。旅客機としては世界最大の機種。
写真=iStock.com/rusm
世界初の総2階建て旅客機エアバスA380。旅客機としては世界最大の機種。

その間、国際線を相次いで広げ、2015年度には国際線の旅客数で初めてJALを抜いた。政府専用機もJALから奪い、悲願のナショナルフラッグキャリアの座についた。

その結果、ANAブランドで使用する機材数は2010年3月の217機から2020年3月には268機と約1.2倍に増えた。従業員数も2010年3月末の3万2578人から2020年3月末には4万5849人と1.4倍に。規模の拡大で連結売上高は2010年3月期の1兆2283億円から、2019年3月期は2兆583億円となり、創業以来、初めて2兆円を突破した。

だが、現状は、新型コロナウイルス感染拡大による需要消失で拡大路線が重荷になっている。

ホノルル線に導入した大型機A380が経営の重しに

ANAがJALの牙城である成田―ホノルル線切り崩しのために導入した座席数520席の超大型機エアバスA380は倉庫に眠ったままだ。資金流出を最小限にしたいコロナ禍では、膨らんだ航空機のメンテナンス費やレンタル費は大きな痛手だ。

実際、ANAの業績は厳しい。政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」の効果で昨年10~12月の国内線旅客数は523万人と、7~9月から5割増加したが、国際線旅客数は12月時点で前年比94%減と低迷が続く。

政府による緊急事態宣言で国内でも需要が再び冷え込んでいる。2021年3月期通期の最終赤字の予想は5100億円に据え置いた。期末までに営業キャッシュフローの黒字転換を目指していたが、「年度末の段階でプラスに転じるのは難しい」と、1月末の決算会見で福沢一郎取締役は渋い表情で語った。