言葉が心に響くための第三の必要:「仁の心」

第三に、利他心や慈愛と置き換えてもいい。

相手を思いやる気持ちがない者の言葉は、ボールを持たずに投げたふりをするキャッチボールのようなもので、相手は手応えを感じないし、球を投げていないのだから、返球はあり得ない。

また、相手を思いやることがないと、暴言ととられる言葉も出てしまう。

コロナ感染が再拡大したとき、「あちこちで気の緩みが見られる」と発言した政権幹部がいた。通常、気が緩んでいるぞ、という言葉は目上が目下に使う。

なぜ「上から目線」になるのか?

なぜ「上から目線」になるのか。それは、国民を無意識のうちに下に見ているからであり、そこに愛情や慈愛を感じることはできない。

ほとんどの場合悪気はないのだが、陳情を受けて予算を付けることを「施し」くらいに考えている人間は、こういう態度に陥りやすい。

左手で宣誓を近い、後ろ手の右手は裏切りのハンドサイン
写真=iStock.com/P_Wei
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旧海軍には「海戦要務令」というものがあって、その中に「和諧ハ軍隊ノ血液ナリ」という言葉がある。“和諧”とは、愛情と信頼あふれる人間関係のことである(中村悌次・元海上幕僚長)。

命のやりとりをする戦場では、軍紀を守ることと同時に、互いに信頼し、愛情あふれる関係になければ組織は機動的に動かない。

昭和天皇からの信任も厚かった山梨勝之進・元海軍大将は、戦後自衛隊での講話の中で、「部下を心から愛してください」と述べている。

野党も含めて政治指導者は、国民から「支持される」ことばかり考えず、国民を愛し、その結果として厳しいことを口にする勇気が必要である。

「未来を拓くのは君たちだ」と言ったケネディに対して、国民は「いやいや、国はもっと面倒見てくれよ」と批判をしたか。むしろ国民は燃え立った。そこには言行一致し、高い志を持ち、愛情深く国民を思うケネディへの信頼があった。

人の心に響く言葉とは、人望ある人物から発せられる言葉である

やや蛇足だが、鳩山由紀夫という人の発言は歴代首相の中でもトップクラスの丁寧な言葉使いで、「愛」だの「命」だのとよく話していた。しかし、言行は不一致、志は空回りし、「国民が聞く耳を持たなくなった」と、最後は国民への愛情を捨て、国民のせいにして政権を終えた。

政治指導者は、「人の心に響く言葉とは、単なる言葉の修辞や正確さではなく、人望ある人物から発せられる言葉である」ことを、胆に銘じておくべきであろう。

言行一致、高い志、仁の心。いずれも高度な知識は必要ない。誰でも、心に響く言葉を発せられる、人望力のある人物になれることを、最後に記しておきたい。

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