「よそ者」とつながっている人ほど給料が高い

もう一つよく知られているのは、シカゴ大学ビジネススクールのロナルド・バートの研究です。彼の研究によると、グループの中だけでつながっていずに複数のグループとつながりを持つ人、いわばグループ間の橋渡し役が、グループ間の情報の伝播に重要な役割を果たしていることがわかりました。そして、そのような橋渡し役はさまざまな情報にふれることによって、自分自身の能力も上がってくるのです。

図表1は、あるアメリカの企業内の従業員の人間関係を表しています。一つひとつの番号が従業員を表します。これを見ると、この企業の中にはいくつかの派閥が存在していて、それぞれの派閥の中ではそのメンバーたちが非常に密接につながっています。

それぞれの派閥は完全に孤立しているわけではなく、派閥の間を橋渡しする人がいます。たとえば、右上にいる「9番さん」は右上の派閥に属していますが、それ以外にも三つの派閥の人ともつながっています。

バートは、このデータを使って、各従業員のつながり(人間関係)の多様性を数値化しました。つながりが多様というのは、ある人がいろんな人とつながっていて、その人たちがさらにいろんな人とつながっている状態を指します。

すると、図表2で示されるように、たとえば9番さんのようにつながりが多様な人ほど給料が高いという傾向があることがわかりました。よそ者とつながることで知識や情報を学び、業績が向上するのです。

同じ都道府県ではない取引先を増やすと売上が上がる

同じことは、日本国内のサプライチェーンでも見出されています。日本では、東京商工リサーチや帝国データバンクといった信用調査会社が、各々の企業の信用調査をする中で、取引先も調べています。彼らは日本中の企業100万社以上を定期的に調査しているので、そのデータを使えば、日本国内のサプライチェーンを俯瞰できます。

私も兵庫県立大学の井上寛康やシドニー大学のペトル・マトウシュと、このデータを使ってどのようなサプライチェーン上のつながりが企業の売上を成長させるのかを調べました。その結果、従業員一人当たりの売上高は、同じ都道府県内の企業との取引を増やしても必ずしも増えませんが、都道府県外の企業との取引を増やすと増えることがわかりました。

なぜ県外の企業と取引すると業績が上がるのでしょうか? 海外の企業が日本の企業にはなじみのない情報や技術を持っているのと同様、国内であっても地域外の企業は自分の知らない情報や技術を持っているのです。

そのことは、特許のデータを使えば実証できます。一つひとつの特許はどのような技術に関する特許なのかを基に分類されています。その情報を基に、各都道府県でどのような技術分野の特許が出ているかを見てみると、都道府県によって得意とする技術分野は大きく異なるのです。

鉄工所で働く職人
写真=iStock.com/YOSHIE HASEGAWA
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国際共同研究の割合が極端に低い日本と韓国

貿易や投資のグローバル化だけでなく、研究のグローバル化も企業の業績向上に役に立ちます。これは、私が井上寛康らと行った研究です。

ここでも特許情報を使います。複数の人や機関(企業や大学など)が一緒に出願することを共願と呼びますが、これは共同研究の成果と考えられるので、この情報を使って国際共同研究がイノベーションに対してどのような影響があるかを分析します。