ニューヨークに留学していた娘が、就職が決まり日本に帰ってきた。帰国早々、社会人への脱皮を宣言するように、古い机や本棚などを処分し、部屋に新しい家具を入れた。近くに大手家具店があるのに、娘は妻を口説いて千葉県南船橋にあるイケアまで遠征、帰宅後2人は、目を輝かせてイケアの探検談を聞かせてくれた。
なぜわざわざイケアまで行ったのか、最初私にはわからなかった。が、その直後に読み始めた本書になんとその解答が書かれているのを発見した。
本を開くと、世の男たちに向けたテストが設けられているのだが、10問中、正解が5問以上でないと「お父さん」の称号を与えられてしまう。そして本書では、その「お父さん」とは、今日の消費文明を理解していない人種と捉えている。
私は4問しか正解できなかった。しぶしぶとはいえ、名実ともに「お父さん」となった私は、本書に教えを乞う羽目となる。著者たちの口ぶりはある種のわざとらしさを感じるが、その指摘には新鮮な発見を覚える。
たとえば、日本で格差が拡大しているから物が売れなくなったといった論調がよく聞かれる。しかし、著者はバブル期と最近の世帯ごとの家計資産を比較し、物が売れるかどうかという社会的事象と「格差社会」を関連させる論調の不確実さを痛烈に嘲笑している。その鋭い指摘に小気味の良さを覚えたほどだ。
具体的には、若い女性だけでなく男の心も掴んだ蒸し器ルクエなどの小物商品の成功や、前述のイケア、会員制業務用スーパーの「コストコ」などの人気ぶりを通し、その成功要因を分析する。
そんな著者は、ハワイで豪遊したり、「ルイ・ヴィトン」を買ったりする1980年代後半~90年代前半のバブル時代の「ギラギラ」した消費を「海外旅行型消費」と名付けた。
一方、2000年代以降の堅実志向に基づく消費を「遠足型消費」と呼び、「キラキラ」と発光する「非日常感」が商品を流行させる基本要素だと定義している。つまり、人は「ギラギラ」した過剰な「非日常感」ではなく、身近で、気軽で、それにリーズナブルに味わえる「非日常感」を求めている。そこにある種のキラキラした要素を見出し、消費の幸福感に浸る。
こうしたささやかな幸福を求め、「女こども」がメーンの消費者たちは決して安くはない会費を払ってコストコに行き、貴重な休日の時間を費やしイケアに足を運ぶのだと著者は語る。
日本の会社ではまだまだ男が主役になりがちだ。が、「女こども」は、デフレ時代と嘆かれる今でも確実な消費ブームをつくりだしている。著者はその「女こども」の代弁者としてその消費意識や消費行動をわかりやすい言葉で表現し、世の中の「お父さん」たちを叱咤激励している。お父さんの一人としてためになった一冊だった。