「事業が先」の、新しい女性起業支援の形
去年から始めた女性起業家の支援事業「Your(ユア)」もフィギュアスケート型で、複業で起業ができる仕組みです。
起業というと「起業家になる=会社を興して社長になる」ことを優先するケースが多いのですが、Yourでは会社を興すよりも、まず事業を世に送り出すことを優先しています。
事業アイデアをもつ女性から応募があったら「複業メンバー」としてuni’queに参加してもらい、最初はuni’queの中で新規事業として立ち上げ、資金提供から実務まで僕たちがフルコミットで伴走します。そして事業が軌道に乗ったあとで分社化して株を持ってもらい、晴れて起業家になってもらう。
なぜこういう形にしたかというと、最適なサービス開始のタイミングを逃さないためということもありますが、女性の起業にはいくつかハードルがあると気づいたからです。
僕はこれまで、起業したいという女性から100件以上の相談を受けてきました。でも、実際に起業した人はそのうちの3%弱。ほとんどの人が株式や財務など会社設立の段階や、システム開発といったところでつまずいてしまい、いいアイデアを実現できずに終わってしまうのです。
これはもったいないと思い、「じゃあそこは僕たちが伴走しよう」という仕組みにしました。本人には実際に事業を動かしながら学んでいってもらい、「もう大丈夫」という段階になってから起業家として独立してもらえばいい──。そう考えました。
こうして、当社ではさまざまな事業を世に送り出してきました。例えば、オーダーメイドのネイルサービスを提供する「YourNail(ユアネイル)」はすでに分社化し、村岡弘子さんが大企業で働きながら複業起業家として代表に就任しました。また、高本玲代さんが子育てをしながら関西からフルリモートで立ち上げた、40代からの更年期カップル向けコミュニケーションプログラム「wakarimi(ワカリミ)」は分社化を目指して事業を展開中です。直近の新規事業は薬味好きのためのSNSアプリ「Yakummy(ヤクミー)」で、7月1日にサービスを開始しました。年に4~5本の新規事業を生むペースです。
「活躍=昇進」ではない
現在もほぼ週1回のペースでさまざまな新規事業の議論を行っていて、ちょうどいま一つの事業が開発フェーズに移行しました。このペースでたくさんの新規事業を立ち上げていきたいですね。
いずれの事業も、立ち上げの主体はすべて女性です。彼女たちは起業家であり社長ということになりますが、僕が大事にしたいのはポジションではなく、「世の中にどんなインパクトを与えたか」。社長になったからすごいのではなく、世の中に新しい価値を届けていることがすごいのだと思っています。
世間では女性活躍が叫ばれていますが、そもそも活躍=昇進という概念自体が古いのではないでしょうか。
昇進は、決まった数の席を取り合う椅子取りゲームのようなもの。取り合いになってしまうのは皆が「上」を志向するからですが、「上」を目指す価値観自体が男性的な旧来の価値観ではという気がしています。世の中には本来、上だけでなく横に広がるもの、下に伸びるものなど無数の軸があるのですから。
これからは、宇宙に惑星が浮かんでいるように、組織や活躍の仕方の「無重力化」が進み、上も下もない世界になってくると思います。人びとが仕事を通じ活躍する手立てや、世の中に新しい価値を届ける手立ては、企業内での出世だけではありません。起業や複業という形で「自分らしい仕事をつくり出す」という新しい出世の形に目を向けてみてはどうでしょうか。
女性は男性に比べて、友達や地域、暮らしの面で多彩な軸を持っている人が多いように感じます。上下関係だけではない多様でカラフルな軸を生かして、ぜひ新しい価値を生み出していってほしい。自社でもYourのような仕組みを通じて、新しいロールモデルとして活躍する女性が増えることを願っています。
構成=辻村洋子
建築士としてキャリアをスタート。その後東京大学にてアート研究者となる。2006年、モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップとして『uni'que』を創業。2019年には女性起業家輩出に特化したインキュベーション事業『Your』を立ち上げ、新規事業を多数創出している。著書に『ハウ・トゥ アート・シンキング』『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル』(いずれも実業之日本社)などがある。