スマホアプリの企画開発、新規事業コンサルティングなどを手がける「uni’que(ユニック)」は「全員複業」で、手掛けるサービスは女性向けに特化しています。なぜそう決めたのか、どんな効果が生まれているのか、代表の若宮和男さんに聞きました。
uni’que(ユニック)のメンバーと打ち合わせをする若宮和男さん(中央)
uni’que(ユニック)のメンバーと打ち合わせをする若宮和男さん(中央)(写真=同社提供)

「女性主体」は超合理的な経営戦略

uni’queは、いわゆるITベンチャーですが、少し変わっているのは女性向けのサービスしかやらないこと。これは、僕自身がこれまでの職場で経験してきたことが元になっています。

これまで、複数のIT企業で新規事業の立ち上げに携わってきましたが、そこで感じたのは、「女性のアイデアやニーズが生かされていず、そこに目を向けないのはもったいない」ということです。

大企業の意思決定者は男性が多いので、女性が女性向けの事業案を出しても「理解できないから却下」ということがままあるんです。しかしスマホが主体になった時代のインターネット事業では、女性のニーズがサービスの成長に直結します。これは大きな機会損失だと思い、2017年にuni’queを立ち上げました。

男性視点のフィルターをかけず、女性のアイデアを素直に世に出す。そうすればこれまで見えていなかったニーズをしっかりつかめて、事業として成功するはずだと考えました。

「女性主体」というと、「ジェンダーギャップを正す」とか社会貢献とか、何か立派な目的があるように思われるんですが、そんなことは全然なくて(笑)、事業成功のチャンスに目をつけただけ。実は超合理的な経営戦略なんです。

「全員複業」のメリットは、デメリットを補って余りある

もうひとつの柱「全員複業」も、創業時に決めました。僕は、人を評価するときは働く量や時間ではなく、「どんな価値を出したか」で評価すべきと思っています。「たくさん働いた方が偉い」という風潮のある大企業ではよく、時短勤務中に肩身が狭そうにしている女性をみてきたのですが、よくよく考えると彼女たちって、子育てと企業で2つの価値を出している、スーパーな複業人材なんですよ。全員複業をルールにすれば、時短でも子育て中でも引け目を感じることなく価値に集中できますよね。

もちろんデメリットもあります。ほかの仕事や子育てが忙しくなると当社へのコミットや、マインドシェアが低下することはあります。全員が同じ時間に同じ場所で集まること自体もそもそも難しい。でも3年続けてみて、それを補って余りあるメリットがあると実感しています。

最大のメリットは、優秀な人材に参加してもらいやすいことです。多くのベンチャーが一番苦労するのは、人材の確保です。給料も大企業ほど出せませんし、優秀な人ほど重要なプロジェクトをまかされているので、お誘いしたタイミングに「ちょうど仕事が一段落していて転職できる状態でした」なんてことはほぼない(笑)。

考えてみれば当然のことで、大企業で能力を発揮している人に、先のわからないベンチャーに転職してもらうのは相当ハードルが高いですよね。ところが、これが複業だとハードルがぐんと下がります。ビジョンに共感すれば1回のランチだけで「参加しますよ」と即答してもらえることも多く、当社ではそれが成長につながってきました。

スピードスケートではなく「フィギュアスケート型」で行く

もうひとつのメリットは、事業や環境の変化に柔軟に対応していけることです。

長年新規事業をやってきて痛感していますが、事業成長の要素は、自社でコントロールできることばかりではありません。トレンドや働き方改革、災害、今回のコロナなど、周囲の社会情勢からもさまざまな影響を受けます。

新しい事業は、そういう社会のタイミングに合わせてリソースを投入することが大事です。僕はよく「社会のフタが開く」という言い方をするのですが、「フタ」が開くまでは少ないリソースでじわじわと準備を進めておき、その事業の強みが生きるような「フタ」が開く時に、バッとリソースを集めて世に送り出す。これは全員が本業の会社では至難の技ですが、複業なら柔軟に対応が可能です。

ただ、社会のフタが開くのには時間がかかります。だからuni’queの成長は「フィギュアスケート型」。スタートアップ企業は、脇目もふらず全力で走り続ける「スピードスケート型」が多いのですが、資金調達をして一気に社員を増やしても、社会のフタが開く前に死んでしまったりする。当社は社会のリズムに合わせて緩急をつけて踊りながら、成長すべき時に大きく成長する形をとりたいと思っています。

「事業が先」の、新しい女性起業支援の形

去年から始めた女性起業家の支援事業「Your(ユア)」もフィギュアスケート型で、複業で起業ができる仕組みです。

起業というと「起業家になる=会社を興して社長になる」ことを優先するケースが多いのですが、Yourでは会社を興すよりも、まず事業を世に送り出すことを優先しています。

事業アイデアをもつ女性から応募があったら「複業メンバー」としてuni’queに参加してもらい、最初はuni’queの中で新規事業として立ち上げ、資金提供から実務まで僕たちがフルコミットで伴走します。そして事業が軌道に乗ったあとで分社化して株を持ってもらい、晴れて起業家になってもらう。

なぜこういう形にしたかというと、最適なサービス開始のタイミングを逃さないためということもありますが、女性の起業にはいくつかハードルがあると気づいたからです。

4月にuni’queが開催したオンラインイベントのパネルディスカッションで話す、若宮和男さん
uni’queが4月に開催したオンラインイベントで話す若宮和男さん(右上)、「wakarimi」の高本玲代さん(右下)、「YouNail」の村岡弘子さん(左下)。左上はBusiness Insider統括編集長の浜田敬子さん(写真=uni’que提供)

僕はこれまで、起業したいという女性から100件以上の相談を受けてきました。でも、実際に起業した人はそのうちの3%弱。ほとんどの人が株式や財務など会社設立の段階や、システム開発といったところでつまずいてしまい、いいアイデアを実現できずに終わってしまうのです。

これはもったいないと思い、「じゃあそこは僕たちが伴走しよう」という仕組みにしました。本人には実際に事業を動かしながら学んでいってもらい、「もう大丈夫」という段階になってから起業家として独立してもらえばいい──。そう考えました。

uni’que発で分社化した事業「YourNail」
uni’que発で分社化した事業「YourNail」

こうして、当社ではさまざまな事業を世に送り出してきました。例えば、オーダーメイドのネイルサービスを提供する「YourNail(ユアネイル)」はすでに分社化し、村岡弘子さんが大企業で働きながら複業起業家として代表に就任しました。また、高本玲代さんが子育てをしながら関西からフルリモートで立ち上げた、40代からの更年期カップル向けコミュニケーションプログラム「wakarimi(ワカリミ)」は分社化を目指して事業を展開中です。直近の新規事業は薬味好きのためのSNSアプリ「Yakummy(ヤクミー)」で、7月1日にサービスを開始しました。年に4~5本の新規事業を生むペースです。

「活躍=昇進」ではない

現在もほぼ週1回のペースでさまざまな新規事業の議論を行っていて、ちょうどいま一つの事業が開発フェーズに移行しました。このペースでたくさんの新規事業を立ち上げていきたいですね。

いずれの事業も、立ち上げの主体はすべて女性です。彼女たちは起業家であり社長ということになりますが、僕が大事にしたいのはポジションではなく、「世の中にどんなインパクトを与えたか」。社長になったからすごいのではなく、世の中に新しい価値を届けていることがすごいのだと思っています。

世間では女性活躍が叫ばれていますが、そもそも活躍=昇進という概念自体が古いのではないでしょうか。

昇進は、決まった数の席を取り合う椅子取りゲームのようなもの。取り合いになってしまうのは皆が「上」を志向するからですが、「上」を目指す価値観自体が男性的な旧来の価値観ではという気がしています。世の中には本来、上だけでなく横に広がるもの、下に伸びるものなど無数の軸があるのですから。

これからは、宇宙に惑星が浮かんでいるように、組織や活躍の仕方の「無重力化」が進み、上も下もない世界になってくると思います。人びとが仕事を通じ活躍する手立てや、世の中に新しい価値を届ける手立ては、企業内での出世だけではありません。起業や複業という形で「自分らしい仕事をつくり出す」という新しい出世の形に目を向けてみてはどうでしょうか。

女性は男性に比べて、友達や地域、暮らしの面で多彩な軸を持っている人が多いように感じます。上下関係だけではない多様でカラフルな軸を生かして、ぜひ新しい価値を生み出していってほしい。自社でもYourのような仕組みを通じて、新しいロールモデルとして活躍する女性が増えることを願っています。