素早くデジタル化に対応できた理由
緊急事態宣言後、これほど早くLINEやZoomによる接客が可能だったのは、ひとえに3年以上前から、オンラインとオフラインの垣根を低くする「シームレス」な接客や販売、すなわち「DX(デジタル・トランスフォーメーション/デジタルによる変革)」に向けて、真剣に取り組んできたからでしょう。
先の「マッチパレット」も、前段は2019年8月から婦人靴で、20年3月からは紳士靴でもスタートした、足形の3D計測および靴の自動レコメンドシステム(「YourFIT365(ユアフィット365)」)。
このも、YourFIT365の場合、店頭でシューカウンセラーによるフィッティングサービスを受けられるほか、店頭での足形3D計測後、スマホの専用アプリ(三越伊勢丹アプリ)にデータ連携すると、計測結果を基にオンラインで「足に合う靴」がレコメンドされたり、ECサイトでショッピングできたりする(一部商品を除く)など、やはりシームレスなショッピングが可能です。
顧客の行動や思考を時系列で可視化
「もっとも3~4年前まで、まだオンラインは『店頭(リアルの場)』を活性化させるための手段だという捉え方が、社内でも主流でした」とMD統括部・升森一宏さん。
ですが実際に走り出してみて、昨今の顧客が、いかに事前に他社も含めた商品をリサーチしてから店頭やECサイトにやって来るかが、よく分かったとのこと。
それを気づかせた一つのきっかけが、「カスタマージャーニーマップ」(図表1)の作成だったと升森さん。顧客の行動や思考、感情などの動きを「旅するように」時系列で可視化することにより、リアル・バーチャルも含めたどのような場(店頭やマスメディア、SNSほか)で、どんなタイミングに、どのような情報を伝えるべきかを洗い出すものです。
“接客”は予約前から始まっている
カスタマージャーニーに早くから着目してきたのが、ホテルや旅行代理店、航空業界だと言われます。とくにANAをはじめとした航空各社は近年、ネットを介した予約や割引がすっかり一般的になりました。
これにより、従来は「リアルの場(搭乗手続き~搭乗時)で、顧客をどうもてなすか」が課題とされたのが、いまでは予約前の情報収集も含めた「前段階」から、搭乗後にメール等でどう顧客をフォローし、SNSでどう呟いてもらうかといった「後段階」まで、長期間にわたって顧客と向き合うことが重要に。
また、リアルだけでなくバーチャルでの情報提供や販売方法、アフターフォローも含めて考える必要が生じたため、社内で複数の部署が議論を交わし、徹底的に現状を洗い出すことが大切になってきたのです。