「バー開店中」の札を前に座る教師

それでも、教師たちはクラスが任意でよいかどうかについては確信を持てなかった。みんながこれぞ自分の仕事だとみなしている部分を手放すのは、勇気のいることだった。

ダイアン・タヴァナー 著/稲垣みどり 訳『成功する「準備」が整う世界最高の教室』(飛鳥新社)
ダイアン・タヴァナー著/稲垣みどり訳『成功する「準備」が整う世界最高の教室』(飛鳥新社)

そこで、私たちは折衷案を採用した。「チュータリング(個人指導)・バー」と名づけたものをテストしたのだ。アップル社のユーザーサポートコーナー「ジーニアス・バー」から名前をとったこの手法は、自己主導の学習時間に教室に専用の机を置き、それぞれの教師の前に「バー開店中」と表示するものだった。

授業を受け持つのではなく、必要なら手を貸すというスタンスで、教師たちはどうなるか待ってみた。ほどなく最初の生徒がやってきて、2人目、3人目と続いた。

その週のランキングではこの個人指導がトップになったが、ひとつだけ問題があった。教師の前に並ぶ列が長くなり、待ち時間が増えると評価が下がったのだ。そして  今度は並んでいるあいだに子ども同士が自然と教え合うようになった。あっという間にバーの前は2人組みの生徒たちでいっぱいになり、生徒同士の学びはリソースの中でトップ評価を獲得したのだった。

いまでは「教師→生徒」「生徒→生徒」と両方のパターンで学ぶ環境が整い、テクノロジー・プラットフォームもある。生徒が特定の知識に熟達すると、チューターをしたいという意志表示ができるようになっているのである。

生徒同士が教え合うことのすごい効果

このウィン・ウィンの効果は否定しがたい。人は誰かにものを教えると、その分野でさらに熟達するという明確なエビデンスがある。

それだけではない。生徒同士が適切にサポートし合うと知識が増えるだけでなく、うまくいく習慣も身につく。また子どもたちは、自分の興味のあるトピックは、進んで人に教えてあげたくなる傾向にある。しかもその熱意は、教えている相手にも伝わる。ちょうど、パラパラと本を見ている友人にその面白さを熱心に伝えると、その人が本を買う気になるような感じだ。