夫婦2人とも個人事業主で働くのにはリスクがあるが、一方が社員のままでいるのは賢い選択かもしれない。夫は工場で量産する体組成計などの電気回路を設計するチームの長のまま個人事業主に。社員時代と仕事の内容は変わらないが、働き方の自由度は上がり収入も安定。不安があるとすれば会社任せだった税金関係をすべて自分で申告しなくてはならないこと。タニタでは、メンバーで構成する互助会が契約する税理士がサポート。納税や社会保険料などのシミュレーションも行ってくれる。
日本全体の活性化につながれば
それにしてもこれらの働き方改革がなぜ「日本活性化プロジェクト」と名付けられたのか? プロジェクトの先導役である谷田社長は語る。「『タニタ活性化』ではなく『日本活性化』にしたのは理由があります。現状の残業時間削減にばかりフォーカスした働き方改革を進めても、日本の経済は元気にならない。今回のタニタの取り組みが、自社だけでなく他の企業や日本全体の活性化につながればと思って名付けたのです」。重要なのは、“働く時間”だけではなく、“仕事の質”を上げること。会社から言われたことをこなすだけでなく、いかに前向きに主体的に仕事に取り組めるかが大事なのだ。
「課題はまだまだあるので、4年目のプロジェクトメンバーの応募がどれだけあるか不安です(苦笑)。たとえば個人事業主には産休や育休がなく、育児休業給付金なども出ない。そのような制度が整っていない事例にこれから向き合わないといけません」。しかしこれはタニタだけではなく、日本の個人事業主全体の問題だ。このような問題提起は、まさに“日本活性化”につながる。
「時間をかけて取り組み、改善を繰り返していれば必ず良い結果を生み出すと信じています。私が社長である以上、この制度は続けます」。やる気のある社員が主体的に働けるようになり、幸福感や充実感が大きくなれば、真の意味でタニタと日本の活性化に近づくだろう。
撮影=アラタケンジ
ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。