女性リーダーに過去経験したつらかった出来事を聞くと、多くの方から「育休明けの育児と仕事の両立に苦しんだ」という答えが返ってくる。働き方改革や女性活用に取り組む、ワーク・ライフバランスの代表取締役社長 小室淑恵さんによると、さまざまな困難を前向きな姿勢で乗り越えながら愚直に仕事に取り組んで来た女性ほどまわりに頼れず、産後うつになる傾向が高いという。そうなってしまう一番の原因は「正しい産後うつに関する情報が社会に行き届いていない」からなのだとも。育休明けのNG行動とは一体? 小室さんにお話しいただいた。

女性経営者の産後体験談「睡眠不足でいい仕事はできない」

焦りを時間でキャッチアップするのはNG

「まず注意しなければいけないのが、『育児のせいで皆から遅れている』と焦りを感じてしまうこと」だと小室さんは語る。その焦りを埋めるべく復帰後すぐ家に仕事を持ち帰り、休む間も惜しんで遅れを取り戻そうとする女性が少なくないが、実は、それこそが一番のNG行動なのだという。

ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵さん
ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵さん

「私の場合、産後3週間で今の会社を起こしたのですが、当時は焦りがあったのでしょうね。夜中に授乳のために起きたあと、どうせ数時間したら次の授乳タイムが来るからと、そのままパソコンを開いてメール処理を行うなどしていました。でも、そんな睡眠不足のフラフラ状態でメールを書くと何が起こるかというと、社内に向けたメールの文面が、ほぼほぼきつい調子になるわけです。なんでなの? とか、詰問口調ですよね。さらには、メールの送り先を間違えるなどという致命的なミスまでしてしまいました。これは本当に本末転倒で、一歩でも先に仕事を進めようと焦ったために、翌日は謝罪から始めないといけない。むしろ後退しているわけです。ですから復帰後すぐは、生産性が低くなっている時間に仕事をすることは、自分を律して断固としてやめなければいけません」

睡眠不足がつづいた結果、産後うつに陥り①人にきつく当たる、②他の人の言った何げない一言を、人格を否定されたように受け取ってしまうなどの現象が起こるようだ。育児中とそうでない人のトラブルが多くなるのには、そんな背景があるという。

産後うつの主な症状
□ 疲労感や不安
□ 不安・緊張・パニック
□ イライラ
□ せかせかする
□ 物事に対する興味が薄れやすい
□ つい自分を責めてしまう
□ 涙が出てきてしまう
□ 子供や夫に対する愛情を感じられない
□ 食欲がなくなるなど

経営者でない限り、産後3週間で職場に復帰することはないが、「焦りを時間でキャッチアップ」しようとして、睡眠不足に陥り、せっかく職場に復帰したものの、復帰一カ月ほどで「死にたい。辞めたい」という心境に陥ってしまった女性たちの声は、過去取材でも幾度となく聞いてきた。産後うつが長期化し深刻化すると、感情がなくなり子どもをかわいいと思えないなどの症状が出て、自殺や子どもの虐待等の原因にもなる。自分を律して産後うつを予防することが何よりも大切だ。