そこで谷田社長は、以前から関心があった個人事業主の働き方を徹底的にリサーチ。会社の枠を超えて仕事ができ、働いたら働いた分だけ稼ぐことができる能力主義の世界であること、さらに確定申告時に業務にかかわる経費を計上でき、さまざまな控除が受けられるので、社員時代よりも手取り額が多くなる可能性が高いことがわかった。
個人事業主になったメンバーの初年度の報酬は、会社員時代と仕事内容が変わらない場合、減ることはほとんどなく、むしろ増えることが多い(図参照)。メンバーはタニタの仕事を優先的に行って成果を上げつつ、タニタ以外の仕事でスキルも収入もアップできれば、会社もメンバーもWin-Winの関係になれる。
16年に全社員に向けて同プロジェクトの説明が行われたが「社長は一体、何を言い出すのか? 意味がわからない」「体のいい首切り、人員整理ではないのか?」「プロジェクトメンバーに仕事の指示ができなくなって、組織が崩壊するのではないか?」というネガティブな反応を持つ社員や経営層が多かったそうだ。仕事や収入が担保され、働き方の自由度が上がるとはいえ、安定した社員の身分を捨てるのは勇気がいるだろう。“9時~5時で仕事は終わり”というサラリーマン意識が強い人には向かない。高いスキルと、仕事への情熱と向上心が、プロジェクトメンバーには欠かせない。
健康管理のデータ解析は価値が高いスキルだ!
そんな嵐の船出の中、8人が第1期メンバーとなり、個人事業主に転換した。その1人である西澤美幸さん(51歳)は大学の栄養生理学研究室で学び、1992年の入社以来、開発部に勤務。世界初の体脂肪計の開発に従事し、最年少で社内初の技術系女性課長となる。自らを「データオタク」と呼ぶほど、“三度の飯よりデータ解析が好き”。
「若い部下と仕事をするのはとても楽しかったし、課長を任されたことも実績を評価されたのだと感謝していました。でも自分は管理職には向いていないと実感していたのです」
そんな西澤さんにとって転機となったのが、出産を機に本社の開発部を離れてタニタの子会社に移ったとき。自由なテーマでコラムを書いたり、タニタのデータを使ってアプリケーションを作るための開発をするなど、ワクワクするような仕事に出合えた。
その後再びタニタの課長職に戻るが、あの高揚感が忘れられず自ら希望して管理職を離れて、エキスパート職の研究員になる。数年後に「日本活性化プロジェクト」の説明会が行われた際「あなたの働き方に合っている気がする」と同期の女性に言われて、興味を持った。