「個人事業主になれば、大好きな研究やデータ解析に没頭できるし、仕事の選択肢が増えるのではないかと思い、手を挙げました」。うれしいことに社員時代より収入が40%ほど増えたし、講演や原稿の執筆の依頼も積極的に対応できるようになった。「講演はタニタの名前や開発リソースを使ってお話しするので、まずは開発部や広報に相談。追加業務になれば報酬も話し合いで決めます」
人の体に関する健康分野のデータ解析ができるスキルには、かなりの価値がある。この分野のベテラン研究者である西澤さんならば、研鑽を続けたら、もっとお金を稼ぐことができるだろう。その半面クオリティーの低い仕事は許されない。
「ちゃんとコストに見合った仕事をしなければならないので、気が抜けないです。3年契約なのですぐに仕事がなくなることはありませんが、いつも、緊張感を持って仕事をしています」
いつか自分の名前の“看板”で自由に仕事がしたい
同じくプロジェクトメンバーである久保彬子さん(35歳)は、2007年に入社後、国内営業部に配属され、家電量販店やネット通販関係の営業を担当。3年前に部署異動願いを出した時期に、プロジェクトの説明が行われ、メンバーになることを決意する。しかし公務員だった両親に心配され、周囲の個人事業主の知り合いに相談しても賛成と反対が半々だったそう。主な反対意見としては、自分の名前を売って仕事をとるのは想像以上に大変、常にお金の心配がつきまとう、会社員の安定した身分を捨てるのはリスキーだ、などがあった。
「ただ世間一般の個人事業主と違って、今はタニタの仕事が柱なので、収入が減少するわけではないです。何より自分らしく楽しく働きたい。この制度を利用してスキルを上げて、いつか自分という看板で、会社の枠を超えて幅広い仕事がしたいという希望があります」
久保さんの場合、新規事業に携わることが多く、あるプロジェクトでは企画、あるプロジェクトでは営業など、職種が限定されないことも、自由な発想で働きたい久保さんには向いていた。現在も谷田社長からの依頼で、ゲームプロジェクトのリーダーを任されていて、社員時代より収入が30%ほど増えた。
「ただ、どこまでが仕事で、どこからがオフなのか境目がなくなってしまって、土日も休まず働いてしまうことも……。タニタの名前で仕事をしている以上、働きすぎで倒れるというのはありえないので健康管理も大事。でも、これも仕事になるかも、あれも仕事になるかもと考えるのが楽しくてしようがない。この人とこの人をつなげてプロジェクトに巻き込めたら面白い化学反応が起きていい仕事になる、などとオーガナイズするのが自分は得意だということがわかりました」