──杉下右京は「切れ者だけれど変人」といわれます。水谷さんご自身は右京をどのように見ておられますか。
水谷 ぼくは、右京が変人だと思ったことは一度もないんです。一人の人間として生きていくという点に関しては変人でも何でもなくて、本当に普通に生きている。ただ、組織はどういうふうに成り立っているかと考えたとき、そちら側から見ると、変人に見えるのでしょう。右京はまわりが、「それ、ここではいわないでしょ」と思うようなことをいったりしますからね。でも、本当はいったほうがいいことなのに、いっちゃあいけないという風潮がそこにある。数の多いほうがとかく普通になるので、だから右京は少数派になってしまうんです。
──杉下右京という人間の面白さは、まわりが解けない謎を解いていくところです。水谷さんから見て、右京はどこが優れているのでしょう。
水谷 右京は普通は目をつけないところに目をつけるじゃないですか。でも、右京から見たら、実はきわめて普通のことに目がいっているんです。普通は人が見逃しそうなところが右京にとっては普通のことで、決して特別なことに気づいたと思っていない。まわりから見ると、よくそんなところに気がつくねっていう話になるのでしょう。
──ビジネスの世界でもヒットを打てるのは、実は組織内で割と変わり者に入る人が目立ちます。
水谷 あっ、そうですか。
──まわりに反対されるものほど成功する。だから従順な人はヒットを打てない。
水谷 なるほど!
──右京の場合、なぜ、人が見逃しそうなところに気づくのでしょう。
水谷 右京は一つだけぼくと共通点があって、事件に向かうときは研ぎ澄まされたようにいろんなことに思いが届くんです。だから、細かいことが気になる。でも、そうでないときは、この人、本当に大丈夫かしら、と思うようなところもあります。ぼくもカメラのまわりでは割としっかりしているんですが、そこを外れると、ちょっと社会生活不適格者みたいなところがある。
──10年住み続けた自宅で迷子になったこともあるそうで……。
水谷 ええ、そういうことも含めて(笑)。右京もそれにちょっと似たところがあります。でも、事件に向かうとスイッチが入って、事件にかかわっている間はずーっと事件のことが頭の中にあるんです。仕事帰りにたまきさんのお店(小料理屋「花の里」)に寄って、楽しく会話をしているときも、おそらくそのためには頭は10パーセントも使っていなくて、あと90パーセント以上は事件のことを考えている。だから、たまきさんがひと言何かをいうと、すぐに引っかかって、ひらめいたりする。
──それだけ一つのことに集中できる。
水谷 人がものごとを考えるとき、普通はいろいろな条件や状況が邪魔して、純粋に考えることってなかなかできそうでできないですよね。こんなことをしたら誰かに何かいわれるんじゃないか、おかしいと思われるんじゃないかとか。右京はそういう余計なところを全部取り払って考える状態になれるんじゃないかと思うんです。
※プレジデント社のムック『謎解きの発想術』より転載。
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