社内の重役ほど犯しがちな失敗とは
相手にプレゼンを聴いてもらうために第二に重要なのは、「そのプレゼンが相手にどう関係があるのか」を先に説明し、逐一プレゼンをそれに紐づけることだ。
以前、とある海外の巨大な投資会社の社長を某国の政府関係者に引き合わせた際、社長がその政府要人が聞きたいことを無視して、ひたすら自分の会社の魅力や投資戦略をとうとうと話し出したときは、紹介した身としてやきもきしたものである。
相手は完全に「それが私にとってどんな意味があるのだ?」と困惑しているのに、社内や投資家に対して話すピッチ内容を、初対面の政府要人にひたすらプレゼンしてしまっていたのだ。
そこで私は彼のメンツを保つ配慮をしながらも、合いの手でそれがその要人の政府での仕事にどう役立つかに絡めたコメントを加えて、なんとか間を取り持ったものである。この手の失敗は「社内で進言する人がいない重役」に結構多かったりする。
あらゆるプレゼンで重要なのは、相手がどんなことに関心があるかを理解し、それに関連づけたプレゼンを行うことなのだ。
オーディエンスの理解レベルに合わせる
プレゼンを聴いてもらうために第三に重要なのは、相手の理解レベルに合わせて話を調整することである。
私は大変光栄なことに、竹中平蔵教授の大学の授業に招かれ、さまざまな国々の留学生を相手に、英語で講義をすることがある。その場には日本人学生で英語が得意でない学生たちも参加するうえ、一人ひとりの英語力や経済・金融トピックの理解力も異なるので、話し手としての力量が問われる。
そんなとき、教室の後ろのほうにはたいてい、英語が苦手な人が座っているので、後方に歩いて行ったときは、日本語で逐次通訳しながら話すこともある。英語ができないからといって放置しないという姿勢と誠意を伝えるためだ。
また、内容も聴衆に合わせて調整する。私は、大学生向けの講演会では「自分だからこそ話せること」を意識して、投資銀行・公開株投資・PEファンドなど自分自身の経験に基づく一次情報としての教訓を話すようにしている。
そして、その教訓を、学生さんの関心事項である「自分のキャリアや人生にどう関係があるのか」に紐づけることで、ほかの金融・経済専門家との差別化を図っているのだ。
プレゼンをするときは必ず、相手やステークホルダーにとっての「自分ごと」に結びつけよう。そして内容や情報のレベル感は、その目的や相手によって調整し、誠意を見せることが重要なのである。