明治維新は日本史上最大のソーシャルイノベーションですが、その目指すところは、植民地化の危機から国を守り、欧米列強から一流国と認識されるだけの国力を持つこと。それを考えれば、江戸の町を火の海にすることや優秀な幕臣の命を奪うことが、いかに本来の目的に反するかを説いたわけです。
優れたリーダーかどうかは、君子豹変できるかどうかが試金石
現代に通じることですが、イノベーションの目的は変わることではありません。変わることは手段であり、本来の目的は生き残ることであるはずです。変わることは苦痛を伴います。明治維新では大量の血が流れました。だんだんヒステリー状態になってクールヘッドでものを考えられなくなり、本来の目的を忘れてしまった。だが、西郷は踏みとどまりました。優れたリーダーかどうかは、君子豹変できるかどうかが試金石です。西郷は勝の助言に従い、独断で江戸城総攻撃中止を決定します。これは立派な越権行為です。
しかしこのとき、部下は「あの西郷さんが言うのだから」と、一も二もなく従います。そのまま西郷は京にのぼり、過激な公家を説得し、最終的に明治天皇の大御心まで変えてみせます。おそらく反対が出たら、彼は自分の命など鴻毛ほどにも思わず、ただちに腹を切ったでしょう。
そして西郷のリーダーシップは、徹底した情報収集に裏打ちされたものなのです。西郷は若いころ、名君の誉れ高い島津斉彬の庭方役を務めています。このとき、リーダーのあるべき姿と情報の大切さを知ったのでしょう。積極的に藩外の人と交流し、人脈を拡大させています。島津斉彬のような優れたリーダーにひきたててもらえた強運も、彼のすごさなのかもしれません。そして自らも参禅で胆力を磨き、遠島などの苦難に耐えて巌のような精神力を身につけた。西郷隆盛――先人に学ぶなら私の一押しの人物です。