雇い止めが横行する社会は感染症に弱い社会

有給休暇など望めない非正規雇用の人たちはさらに悲惨です。風邪を引こうが熱があろうが、あるいは一斉休校で小さい子どもに一人で留守番をさせることになろうが、生活を守るために仕事を休めない人が沢山いるのですから。なんとか無給の病欠が認められたとしても「身体が弱い、やっかいな人員」と見なされ、解雇や雇い止めを喰う恐れもあります。

こうした人たちは症状をひた隠しにして無理をしてでも仕事に行こうとするでしょう。風邪で安心して休むことができない社会は、そのまま新興感染症に弱い社会なのです。

COVID‐19は日本人が目を背けてきた雇用格差や働き方の問題を浮き彫りにしました。実は2009年に新型インフルエンザが流行した際に「念のため受診」や「陰性証明」を求めて比較的元気な人が病院に殺到したときも、すでにこうした問題は明らかでした。私は当時から「体調が悪いときは休みなさい」「病気は社会が引き起こす」と訴えてきたのですが、一人の医師ができることには限界があります。

日本社会の構造的な欠陥が明らかになった今、私たち一人ひとりが「体調が悪いときは休む。それが社会人としての常識です」と声あげ、病欠のときの所得補償や休業保障を要求し、理不尽な解雇や雇い止めを違法とするよう働きかけていくことが必要なのだと思います。

今つくるべき“ポスト・コロナの新常識”

COVID‐19の流行は長期化する見通しで、私たちはPost‐COVID‐19社会の新常識をつくる必要に迫られています。私が考える新常識は次の通り──。

新常識I

①体温が37度以上、少なくとも37.5度以上の微熱が4、5日以上続き、

②咳など呼吸器の症状があり、

③インフルエンザやマイコプラズマなど他の感染症が否定されたケース については、検査の有無、陰性・陽性にかかわらず、社会的診断として全て「新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)」として取り扱うこと。

新常識II

また、無症状やごく軽微な症状の人の中にも感染者が含まれていることを踏まえ、強い呼吸器症状がなくても、「全ての風邪のような症状は『疑似COVID‐19』とみなし、会社都合で休ませること」。

会社の「防疫」のために休むのですから、会社都合は当然です。「COVID‐19」の陰性証明や「出勤(登校・登園)許可書」のために医療機関を受診し、貴重なリソースを無駄にすることもなくなるでしょう。

休業もリモートワークも認めない管理職をどうするか

頑なに「休業」も「リモートワーク」も認めようとしない管理職や経営者には、COVID‐19の感染力の強さや、陰性・陽性の検査結果があてにならないこと、無理を強いて社内でアウトブレイク(限られた場所での感染症の集団発生)し、会社自体がクラスターとなってしまったら、一社員の休業では済まされないという事実を淡々と説明してください。

風邪で休むことが結果的に社会の利益を守るという理解が浸透すれば、多くの人が「風邪でも休めない」社会はゆがんでいるのだという認識に変わります。働き方の多様性も受け容れられて、子育て中の女性や障害者の働き方も変化するのではないでしょうか。

COVID‐19の流行はまさに未曾有の災厄です。しかし、この災難の教訓を生かすことができれば、日本社会を変えるパラダイムチェンジにつながる可能性があるのです。ピンチをチャンスに変えましょう。

構成=井手ゆきえ 写真=iStock.com

木村 知(きむら・とも)
医師

医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。