最後の砦は能力よりも、責任感

——東海さんは、なぜ小嶋さんといっしょに仕事をしたいと思われたのですか? 会社員生活で大事にされてきたことは?

東海友和『評伝 小嶋千鶴子 イオンを創った女』
東海友和『評伝 小嶋千鶴子 イオンを創った女』(プレジデント社)

「一言でいえば本物やな、と思いました。何しろ欲がない。出世欲、金銭欲がないから怖いものなし。パッとものを言うし、人が嫌がることも言うし、叱るときはめちゃくちゃ叱る。小嶋も岡田も、私をよく知っている。その安心感が強いですね。そんな“本物の人”を知ってしまうと、自分のことだけを考えて人を大事にしない社長がいると、許せませんね。もうあかんのですわ。この野郎! となってしまう。

ただ、それが幸せだったかというと、また別ですよ(笑)。会社員生活は、紆余うよ曲折、艱難かんなん辛苦。楽しいことのほうが少ないけれど、責任感だけはありました。能力があっても、責任感がなければダメです。小嶋にも『最後の砦は責任感やな』と言われたことがあります。

あるとき小嶋に『それは僕の仕事とちゃう』と言ったら、猛烈に怒りましてね。『君なんかな、まったく能力ないんやからな、若いときから知ってる。でも責任感は人一倍ある。その強みを自分で捨てるんやな!』と。責任感で大切なのは幅と深さですね。自分の仕事は一体どういう責任を負うべきなのか、ということ。いちばんあかんのは、無関心で無責任。ぜひ責任感をもって頑張ってください。あんまり張り切りすぎなくてもいいですけどね」

東海 友和(とうかい・ともかず)
東和コンサルティング代表

三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。著書に『イオンを創った女』(プレジデント社)、『イオン人本主義の成長経営哲学』(ソニー・マガジンズ)、『商業基礎講座』(全5巻)(非売品、中小企業庁所管の株式会社全国商店街支援センターからの依頼で執筆した商店経営者のためのテキスト)がある。