忙しい女性にどう売るか
そこで森さんたちは「肌や髪の美と健康を守ってくれる枕やピローケース、タオルなどがあれば、働く女性に歓迎されるのではないか」と考えたと言います。
当時から、家事を楽にしてくれる家電や、疲労回復に導く寝具等は、市場にあふれていました。半面、「美容睡眠」をコンセプトに掲げた寝具は見当たらなかった。だからこそ、競合他社との大きな差別化ポイントになると発想したのです。
半面、悩んだのは、「売り方」と「価格」。ニューミンのメインターゲットが、「働く30代女性」だったからです。
まず売り方。60代のシニア女性なら、日中に「ゆっくりオーダーメイド枕を作ろう」と来店してくれる機会もあるでしょう。でも、働く女性は忙しい。できれば短時間で簡単に、しかもわざわざ来店しなくても「自分に合った枕」が作れるのがベター。
ゆえに、森さんたちが意識したのは、「夜、自宅のベッドの上で、測定から購入までが完了できること」でした。
1万6000円の枕はファーストステップ
具体的には、頬が当たる部分の高さの調節を、三角形の「Lラインパッド」の抜き差しによって簡単に行えるようにするとともに、購入やフィッティング診断を、専用のECサイトやブランドサイトでラクに行えるようにしました。
フィッティング診断にかかる時間は、わずか1分ほど。専用サイト(アプリ)上で顔の正面と側面を撮影するだけで、スキャンデータから適切な枕を提案してくれます。
一方の「価格」は、「肌にやさしいまくら」を1万6000円(税別)に設定しました。
いまや30代女性の平均年収は、フルタイムでも年300万円前後(18年 国税庁「民間給与実態統計調査」)。月額にして、約25万円程度です。
そんな彼女たちに、1つ2万5000円(税別)もする同社のオーダーメイド枕(「自遊自材」ほか)をいきなり買ってもらうのは、かなり難しい。そこで森さんたちは、ニューミンを「ファーストステップ」と捉え、「まずはニューミンを気に入ってもらうことで、将来のオーダーメイド枕のファンを増やそう」と考えたのです。
「ファンの高齢化」対策は失敗も多い
ニューミンの展開開始から、2カ月弱。西川は、まだ実売個数を公開していませんが、「ブランドがスタートした直後(1月14日~27日)、有楽町マルイに設置した限定ショップは、狙いどおり30代の働く女性に人気でした」と森さん。
好評だった一つが、座ったままで可能な「枕の測定」。靴を脱いでわざわざベッドに横たわる必要がなく、女性たちから「すごく良かった」「横になるより抵抗感が少ない」との声が続々と寄せられたと言います。
一般に、西川のような老舗企業や老舗ブランドは、長年培った上世代のファン(顧客)がいます。ですがそこだけに頼っていたのでは、ブランドが経年劣化してしまう。先の通り、ファンの加齢や高齢化が避けられないからです。
だからこそ多くの企業は、若い世代に向けて、「似た商品の廉価版を出そう」「別の販路(場)で売ろう」と考えるのですが……、それだけでは失敗することも多いのです。