「穴熊社長は現場へ行け」

名古屋のH社長は、大阪の一倉セミナーに出席し、「穴熊社長はだからダメなんだ!」と散々にお灸を据えられた。H社長もただ怒られるだけでは腹がたったが、事実だから仕方がない。渋々、主要得意先を回り出したが、最初は随分と嫌味を言われたそうである。

しかしながら店頭に行ってみると、自社の商品がお店の隅っこに置かれていたり、古いPOPがそのままついていたり、在庫商品が汚れていたりと、現状を見るにつけ売上不振の原因がすぐにわかった。大急ぎで対策に着手し、トップダウンで全営業に号令を発した。

社長の大変身で「あわや離婚危機」

すると、当然ながらじわじわと売上年計が上向きになり始め、社長自身がお客様回りの効果に目覚め、出張出張の毎日に変わってしまった。そんなこととは知らない社長の奥様は大変である。

今まで毎日のように家で晩ご飯を食べていた主人が、外泊続きとなってしまった。「これはひょっとして……」と良からぬ想像をし始め、一時期夫婦仲が険悪になってきたのである。

H社長は毎月のセミナーにも出席されておられたから、「今日は合理化協会のセミナー」と言って家を出るわけなので、奥様からすれば「日本経営合理化協会も一緒になって悪いことをしているに違いない」と私宛てに電話までかかってきた。

きちんと説明し、奥様も一緒にセミナーに参加していただいて疑惑は氷塊したが、穴熊社長の変身ぶりは見事であった。今となっては笑い話のようである。

社長からすれば、自分がお客様のところへ行くと、相手のお客様も上席、もしくは役員、社長が出てきてくれるようになる。話は自ずと高度な話や真に困っている問題、今開発中の案件など担当営業ではなかなか聞けない話題になり、自社の取り組むテーマもハッキリとしてくるのである。