毎晩マインドフルネスを実践しています。
30代前半にして、濃密な半生を送ってきた酒匂真理さん。13歳で親元を離れ、イギリスの語学学校やニュージーランドの高校で学び、日本の大学・大学院を卒業。国内企業に勤めた後、発展途上国で遠隔医療・検査サービスを展開するAIベンチャー「miup」を国内で起業し、バングラデシュにわたり子会社を設立した。
「『そんなところに女性一人で大丈夫?』などと言われましたが、親元を離れたときのほうが、よほど決断が必要でした。私の実家は、代々続く医者の家系で、当然のように『医者になれ』と教育されました。それが私にとって大きな負担となり、小学生で不眠症になるくらい……。自分の意思で人生の選択肢を見つけたいと思い、中学生のときに外国の学校に行ったのです」
酒匂さんをはじめとする創業メンバーが、手探りで会社を立ち上げたが、会社法の調査、ファイナンス、資本政策、人事など、すべてわからないことだらけ。本で勉強したあと不明な点を、セミナー、講座、勉強会などに参加して人に質問したが、それでも不安なことが多々ある。
起業家の先輩に経営の悩みを相談
若くして起業家になった人は、組織でいうところの上司や同期がいない孤独な存在だ。酒匂さんにとっては、東大発ベンチャーの仲間たちのコミュニティーが助けに。「私もそうですが、経営について話ができる人がおらず、悩んでいる起業家が多い。そんなときに、起業家の先輩方がアドバイスをくれるんです。彼らも自分たちが1度は通った道。会社の立ち上げ段階はこんな悩みがある、軌道に乗ってきたらこんなことが起こるなどと、適切な助言をくれるのがとてもありがたかったですね」
起業家のプレッシャーは相当なもの。それにつぶされないようにするためには、体調管理とメンタルを安定させることがマスト。仲間たちと一緒に寺で瞑想を行い、ザワザワした心を静めるのが常だ。
「今は感情に左右されず、精神的に穏やかに過ごせていますね。起業時は、燃えたぎるような情熱であふれているから、感情制御を考えていなかった。でも会社が大きくなるにつれて、予期せぬことが次々と起こります。特にバングラデシュなどの発展途上国ではテロも多いのですが、それで心を乱されず、平常心を保つことが大事なのです」
現在では、会社が安定しつつあるので、細かい業務はスタッフに任せ、より俯瞰して経営を見られるようになった。今、彼女が目指すのは“新しい資本主義”の概念を事業に取り入れること。「今の自由経済に基づく資本主義は、既得権益の集中や格差が拡大していて、もはや限界だと思います。だからソーシャルグッド(地球環境や地域コミュニティーなどの社会に対して良いインパクトのある活動や製品)などについて勉強中で、“新しい資本主義”モデルを事業として実践していきたい。世の中が少しでも良くなるように社会貢献ができたら、と思っています」
思えば13歳で外国へ出たとき、漠然とではあるが何らかの形で社会貢献がしたいという願いがあった。決裂した実家の両親とも今は和解し、事業について相談できるような良い関係性を築いている。実家の病院も長く地域貢献を果たしてきたので、酒匂さんがこの道を選んだのも、結果的には必然だったのかもしれない。