マイナスの事態にも、真摯に対応することが広報の役目

2019年4月、35歳にして、オアシスライフスタイルグループに入社した工藤さん。日本もタピオカミルクティーブームに沸くなか、3カ月後には銀座店もオープンし、メディアからの取材はひっきりなしだった。

だが、ブームに火がつくほど、それを打ち消すように逆風が吹いてくる。他にもタピオカドリンクの出店が相次ぐなか、タピオカの材料不足や原価高騰が起き、海外では粗悪品による事件が話題となった。さらに大きく報じられたのが、飲み終えたプラスチック容器が路上に捨てられてしまうゴミ問題だ。そうしたマイナスのニュースが流れる度、春水堂としてどう思うかとコメントを求められた。

「うちは丁寧にれたお茶を味わっていただくことを大事にしていても、そういう報道があると、タピオカそのものが全部悪く見られてしまう。私たちにできることは、ちゃんと取材を受けて、間違ったことはしていないということを真摯に伝え続けるしかないんです。ゴミ問題には早くから関心をもって、CSR活動としてタピオカミルクティー協会をつくり、毎月、表参道でゴミ拾い活動をしています。そうして身近なところから少しずつ発信していくことも私の役割だと思っています」

広報の役割は、会社にとってプラスになることだけでなく、マイナスの事態にも真摯に対応することが問われる。そのためには今まで経験した困難や失敗から学んだことを生かし、知恵を絞りながら奮闘する毎日だ。

業界問わず「広報」に必要なスキルとは?

では業界を問わず、広報に必要なスキルとは何か。工藤さんはまず社内でのコミュニケーションを大切にしている。社外に広報するためには、当然ながら社員の協力が必要であり、どんな事態が起きても広報に協力してもらえる体制を築くことが欠かせない。

次に、ニュースは自分で創造して作るということ。商品広報だけでなく、社員や企業をPRする広報においては、もっと視野を広げて社内で起きているニュースを拾い上げる姿勢が大切。そのためにも常日頃から社内の人とコミュニケーションを取っていることが役立つ。そして、そのニュースを、いつ、どんなタイミングで出せばより効果的か。ベストタイミングを見極めることも重要なのだ。

さらに工藤さんが心がけていることがある。「いつもポジティブで、何か起こってもすべて自分に与えられたプレゼントだと思っています。後々になって考えると、会社を辞めなければならなくなったことも、つらかったことも、その試練があったからこそ今の自分があると思えるんですよね。だから、大変なことが起こったときも全力で対処はするけれど、あとは愚痴を言ったり悩んだり、いつまでも引きずるようなことはない。自分にとっては、その時に必要だったのだと切り替えるよう心がけています」

そんな工藤さんがストレス発散できるのは、ラテンダンスの「サルサ」。新卒で広報に配属されたときから習い始め、たちまちのめりこんだという。毎週末のレッスンを欠かさず、バケーションには海外遠征して、セミプロのチームでステージにも出ている。

「ラテンの音楽で心も躍り、踊っているときは楽しくて全部忘れられます。会社でイヤな事があっても土日に踊ってリセットし、月曜日を迎えられる。サルサがあったおかげで仕事もがんばろうという気持ちになれたんです」

35歳でいちばん好きな業界で働く夢をかなえた工藤さん。その先でもよりパワフルにチャレンジを続けていくことだろう。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。