前頭葉に記憶を引き出すとメンテナンスができる

もう一つの意識的に思い出す記憶の整理術を説明しましょう。はっきりと意識するということは、前頭葉に記憶が引き出されるということです。

前頭葉は脳の司令塔ですから、そこに記憶が引き出されることで、「この記憶をどうしようか」「どういう意味があったのか」と改めて脳のさまざまな領域に問い合わせができるようになります。現実世界にも照らし合わせて、広範な記憶のメンテナンスをしてくれます。

意識して思い出す仕組みは、前頭葉の短期記憶の回路に、主に側頭連合野から記憶を引き出すことです。今の自分の前頭葉のスクリーンの中に、昔の記憶を映し出して、これからの役に立てることなのです。

「ど忘れ」こそが脳を鍛えるチャンス

茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える 思い出す力』(河出書房新社)

意識的に思い出す場面とは、実は忘れてしまったときです。「あれ、何だっけな?」とものの名前や誰かと会う約束などをど忘れしてしまうことが誰にでもよくありますが、そのときは実は脳を鍛えるチャンスでもあります。思い出そうとしても思い出せないことはよくあって、そういう状態はイライラするので、思い出そうとすること自体をやめてしまう人がいますが、とてももったいないことです。

思い出そうとするだけで効果があるので、実際には思い出せなくてもかまいません。思い出そうとする癖をつけることは、記憶を整理する一連の回路を鍛えることになるので、結果として物忘れを防止することになります。また最高の脳のアンチエイジングです。

思い出すだけで脳が鍛えられる。これこそ、新しい脳の活用法です。

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