『論語』の教えの大切さを、「古典活学塾」で熱く語りかける。

親族の対立を解消、業績を伸ばした社長

その1人が、「古典活学塾」の勉強会メンバーでもある、活性炭を製造する同族会社の社長です。

お父さんの病気に伴って若くして社長を継いだのですが、長年、同族同士が経営権をめぐって対立している状態でした。お父さんの弟にあたる役員の叔父さんは「借金してでも会社を大きくしよう」という積極派で、慎重派のお父さんと争いが絶えなかったのです。彼が会社を継ぐにあたり、叔父さんのほうにも腹に据えかねることがあって、かえって内紛がエスカレートしてしまいました。

そんな彼が、勉強会で古典を学ぶうちに、人間関係は自分の心がけ次第で変わるのだと気づき、また相手の心中を思いやる気持ちが生まれてきたのです。叔父さんと言葉を交わすようになると、社内からは殺気立った雰囲気が消え、社員が生き生きと働くようになりました。

さらにこの社長は、幹部社員と古典や稲盛和夫さんの教えをともに学ぶ環境をつくり、また社是を作り直すなどして、会社の進む方向を明確に示すようになりました。その効果は歴然で、少し前には15、6億円で推移していた売上高が、直近の決算では36億円と、3年間で倍以上に伸びたのです。

勉強会の創設メンバーの1人が経営する総合建設業の会社も、人間学を修めたことで、リーマンショックで業績が低迷したところからV字回復を遂げ、今では売上高100億円に届くまでになっています。

「人としてどう生きるか」指針となる書

こうしたことで、私が主宰する「古典活学塾」(2019年6月「六化塾」に改名)は、企業からの依頼で幹部社員の教育のメンバーも合せると70人ほどになりました。「学び」の輪をさらに広げていきたいと考えています。

最初の著書『「運命」はひらける!「安岡正篤の本」を読むと、仕事も家庭もうまくいく』は、「安岡人間学」の真髄に触れて私がどう変わったのか、そのことをつづった本です。誰にでも起こりうる人生や家族の体験を通して、「人間学」の大切さについて、いろんな角度から語っています。

小林充治『人間を見極める 人生を豊かにする「論語」』(PHP研究所)人を見抜く力や経営力を高めるための『論語』の解説書。思想家・安岡正篤さん、京セラ名誉会長・稲盛和夫さんの教えを交えながら、著者独自の視点で今の時代に求められる「論語の知恵」をひもといている

2冊目を『論語』にしたのは、「人としてどう生きるか」という道徳が、現代において、とりわけ経営者にとって、とても大切だと考えているからです。売り上げ、利益を目標に経営に励むことは大事ですが、それ一辺倒だと危うい。経営が行き詰まるのを防ぐ知恵を身に付け、危機に陥ったときにも助けてくれる人的ネットワークを日頃から築いておくこと、つまり「人間力」を養うことです。

『論語』は、世の指導者、リーダーのあるべき姿、人として歩むべき道について語った書です。「人間学」の原点といってもいいでしょう。章句一つが比較的短く、内容が簡潔で、どこから読んでもいい、親しみやすい古典です。

それを、経営者の方に人生や経営に役立ててもらえるよう、私の人生経験を踏まえた自らの視点を盛り込んでみました。いわば、経営者のための小林流『論語』です。

小林 充治(こばやし・みつはる)
株式会社アスペック代表取締役 医療法人オリーブ オリーブファミリーデンタルクリニック顧問
1960年広島県尾道市生まれ。岡山大学大学院歯学研究科卒。歯学博士。岡山大学歯学部臨床教授。広島大学歯学部客員講師。岡山で「古典活学塾」(2019年6月「六化塾」と改名)主宰。著書に『「運命」はひらける!「安岡正篤の本」を読むと、仕事も家庭もうまくいく』(プレジデント社)
(構成=久保田 正志)