立ち上げた歯科医院は顧問となり、「アスペック・ブループ」の経営に専心している。

「中国古典」の学びを人に伝えたい

そうやって窮地を脱してみると、周りにいる経営者も、経営や家庭のことで多かれ少なかれ、私と同じような悩みを抱えていることに気づきました。

ところが、その経営者たちが、稲盛和夫さんから中国古典の『呻吟語』『陰騭録(いんしつろく)』などを引用した役立つ話を聞いても、漫然と受け流しているのです。せっかくの教えがもったいない、と解説してあげると、ふに落ちるのでした。

そうことが何度かあった後に、経営者仲間から「中国古典のことを一から教えてくれないか」と打診されたのです。「守屋塾」の守屋先生に相談してみるとお許しが出たので、2011年、岡山の経営者を相手に古典の講義を始めました。

私も経営者の1人ですし、人生経験をそれなり積んできているので、聞き手の経営者が困っていることがそれとなくわかります。彼らの心に刺さる話をするからでしょうか、最初6人から始まった古典勉強会は、たちまち人気となり、毎回35人から40人ほどが集まるようになりました。

古典を学ぶと「人も経営も変わる」

「古典を学ぶと、企業がよくなるっていいますが、それは本当ですか? どうしてそうなるんですか」

ときどき若手経営者からこんな質問を受けることがあります。

経営者は日々、相手の人柄や会社の雰囲気などをみて、「この会社とは長い目でみて取引したほうがいいのか、成長性があるか」「強気の交渉をするか、目先の利益は減るけど一歩譲ったほうがいいか」といった判断をします。その積み重ねが企業の業績を形作ります。つまり企業の業績を左右するのは、経営者の見識に基づく判断力といっていいでしょう。

その物事の判断基準のベースを身に付けるのに役立つのが、古典の知恵です。人間が犯しやすい過ちや人の見極め方などの先例が豊富に詰め込まれています。それを学ぶことで経営者には取引相手の人間性を見極める力が出てきます。また、「組織をどう率いるのがいいか」といったマネジメントの根幹を学ぶことで経営にぶれがなくなり、会社全体が底上げされていくわけです。

ただし、勉強したら今すぐ業績がよくなるわけではありません。私は「石の上にも3年」と言っています。勉強を始めて数年もたつと、経営に対する姿勢が変わり、業績がぐんぐん伸びていく、そういう経営者をこれまでに見てきました。