執務室の書棚には中国古典など数多くの本がずらりと並んでいて、時間をつくっては勉強に励んでいる。

「古典」を学ぶことで窮地を脱した

稲盛和夫さんの教えと安岡人間学、ともに説かれていたのが、次の考え方でした。

「事業の成功は小手先のテクニックでは得られない。経営者の志、人間性こそが企業の浮沈を決める」

それは、「歯科医は腕がよければいい」「人あたりがよければ客は増える」という一念で突き進んできた私の価値観が、根底から覆されるほどの衝撃でした。その頃の私は、ひたすら己の「利」を追い求めていました。歯科医師としての成功であり、お金であり、名誉です。しかし、私が「利」を追い求めれば追い求めるほど、手に入れようしていた「利」も、幸せも遠ざかっていくのでした。

そのことに気づいた私は、腰を据えて「人間学」を勉強することにしたのです。

岡山市で進学塾を経営する本原康彦先生に頼み込んで、「安岡人間学」の勉強会を始めました。これがいい刺激となり、『知命と立命』など安岡正篤さんの著書50冊余りを読破しました。

また、中国古典も一から学ぼうと、中国文学者の守屋洋先生が講師を務めるセミナー「守屋塾」(プレジデント社開催)に毎月参加することにしました。東京への「守屋塾」通いはもう10年になります。『論語』『孟子』『孫子』『韓非子』『呻吟語(しんぎんご)』など、主な中国古典を一通り学び、今ではそれを日々の人生や仕事に活かしています。

壊れた家族が、元に戻っていく

この間、歯科医師会などの対外活動からは全て手を引き、勉強を通じて自分自身真剣に向き合いました。

安岡正篤さんの著書を通して「人間学」を学び、人生の苦境を脱したことを綴った小林充治さん最初の著書、『「運命」はひらける! 「安岡正篤の本」を読むと、仕事も家庭もうまくいく』(プレジデント社刊行)

そして、家族に目を向け、触れ合いを心がけました。私には娘が2人、その下に息子も2人います。心を病んだ上の娘は中学時代と高校時代、入院療養しなければならない時期がありました。私はその間、足しげく見舞いに通い、付き添いました。

やがて長男がソフトボールを始めると、それをきっかけに妻と試合を見に行ったり、保護者の集まりに顔を出すようにもなりました。そうこうするうちに、荒れていた家族関係が少しずつ修復していったのです。

盛和塾岡山では経営者のみなさんとの交流が始まり、歯科医師の狭い世界しか知らなかった私には大きな刺激となりました。それまでは貸借対照表の見方もわからず、どんぶり勘定で済ませていたところから、独学で会計の勉強を始め、傾きかけていた医院の経営を立て直すことができました。古典の知恵を学ぶことによって、私は救われたのです。