部下への“声がけ”は必要ない

今回例示した「言葉」は一例だが、いかがだろう。部下がうまくできるか心配、なるべくうまくいくように導いてあげたい、細かく見てあげないと……など、みなさんが良かれと思って投げかけている言葉にはさまざまな意識が隠れている。また、それを受け取る部下にもさまざまな反応が起きる。より深く探っていくと、管理者も人間だからベースにある意識は、いい人でいたい、好かれていたい、嫌われるのはどうしても抵抗がある、ということかもしれない。

一般的に女性の方が、共感性が強いとすると、部下の気持ちも理解できる反面、管理職という立場もあるし……というギャップに苦しむこともあるだろう。ではいったい上司は部下にどんな言葉をかけて、組織を率いていけばいいのかと疑問に思われる方もいるかもしれないが、結論、声がけは必要ないのだ。上司から部下に投げかけるコミュニケーションは原則、①「指示」(つまりは明確な目標の設定)と②目標に対して生じた差分をどのように改善するか考えさせる「問い」、そして③どの程度、目標に到達したかの「評価」を正しく伝えるだけでよい。冷たい印象を持つかもしれないが、集団を率いて成果を出すという本来の目的に立ち返った場合、余計な声がけがパフォーマンス低下をまねくことはここまで見てきた通りだ。

重要なのは褒める基準

あえていうなら著しい成果に対して称賛する言葉をかけてやればよい。かつて会社員だったころ、私の上司は著しい成果を出すと「まあまあだな」という言葉をかけてくれた。実はこの「まあまあだな」が彼の中で最上級の賛辞であったのだが、数値的に言うと150%くらいの達成度でようやくこの言葉をかけてもらえたと記憶している。つまり、「滅多にない賛辞」であるのだが、部下とコミュニケーションを取らない上司、褒めない上司、といった印象はまったくない。むしろ、滅多にないという希少性が、上司の誉め言葉に力を持たせていた。

滅多にない賛辞を獲得できたという達成感は内発的動機が発生する重要なトリガーであり、その証左として、この上司が率いる組織は常にメンバーが高い基準を追及し、結果的に組織パフォーマンスを高めていった。管理者が明確な基準をマイルールとして持ち、超えてきた部下を徹底して褒める。言葉の表現ではなく称賛する基準が重要なのだ。

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