麻布の理科入試こそ「学校からのラブレター」

よく「入試は学校からのラブレター」と、たとえられることがあるが、それはまさしく麻布の理科入試を指す言葉だと思う。麻布の入試はメッセージ性が強い。一般的な理科入試は「君たちはこういうことを知っているかい?」と知識を問うものであるのに対し、麻布の理科入試は「君たちはこういう考え方について来られるかい?」と、12歳の子どもの好奇心を刺激し、誘っているように感じる。

「君たち、世の中にはね、こんな不思議なことがあるんだよ。その理由はね……」、麻布の理科入試は常にこんな感じで始まる。麻布では、教師は指定の教科書を使わず、自分で作成した手刷りのプリントを使って授業を進める。授業は生徒と教師が対話を楽しむアクティブ・ラーニングだ。基礎は教えるけれど、「1」から「10」まで教師が教えることはない。教師が質問を投げかけて、生徒たちで思考を広げていく。麻布の授業は、1つの答えを求めない。1つの現象をさまざまな角度から見て考える。

こうした授業で求められるのが「好奇心」だ。麻布の理科入試では、こうした授業を楽しめる素質があるかを見極めるために存在するのだ。

入試問題に「メッセージ」が添えられている

麻布の理科入試には、メッセージ性ではなく、メッセージそのものが添えられていることがある。2017年度入試には、生物分野の「進化」をテーマにした問題の最後に、学校からこんなメッセージが添えてあった。

ここまでの話を聞くと、ヒトはトンボよりも優れていると思えてしまいます。しかし、ヒトはトンボとちがって飛ぶことはできません。血液を使って酸素を全身に運ぶので、ヒトの体は飛ぶには重すぎるのです。進化と聞くと、生物が優れたものに変化するように思うかもしれませんが、進化で生まれるのは「ちがい」であって「優劣」ではないのです。

このメッセージは、問題のヒントではない。問題の途中にある説明でもない。問1から問8までの問題と質問の後に、ただ書かれているもので、まさに「学校側から受験生へのメッセージそのもの」なのだ。「進化することは、良いことも、悪いこともある。それに気づけるような物事を複合的に見られる子と私たちは一緒に授業がしたいのだよ」。

そんな声が聞こえてきそうだ。