「血糖値が高くなることで、血管の内皮細胞が傷つき、動脈硬化が進みます。そのことで、糖尿病性腎症や糖尿病網膜症、脳梗塞、心筋梗塞を併発しやすくなります」(久住先生)

治療費は病状が安定していれば、受診は3カ月に1度で済み、1回の診療費は8000円ほどで、年間3万2000円程度。インスリンを効きやすくする薬やインスリン分泌を促す薬代、調剤費を合わせると、1年間で約17万8000円。この自己負担分は約5万3400円。長期間にわたれば100万円は優に超える額になる。

認知症で寝たきり、自然な老衰「平穏死」の選択も

高齢化で避けられない病気が認知症だ。認知症の患者数は、予備軍の軽度認知障害の人も含めると65歳以上の老人の約4人に1人。

「認知症は今のところ失われた記憶や機能を回復させ、完全に治す薬がありません。症状の進行を遅らせる薬としてアリセプトがあり、症状によって5~10ミリグラムを投与します」(久住先生)

アリセプトを投与すると、月額の患者負担は、月に1回の診察料と合わせ約4000円だ。認知症は介護の負担が大きく、介護費もかかる。介護保険を上手に使い、家族の負担をなるべく減らすことを考えるといい。

ただ、認知症が進み寝たきりになると、胃に栄養を入れる「胃ろう」や同様の効果を持つ「中心静脈栄養」などの延命治療をするのが一般的だ。

東京・世田谷区の特別養護老人ホーム・上北沢ホームで医師を務め、『「平穏死」のすすめ』などの著書がある石飛幸三先生は「認知症の人に、成人に行うのと同じ治療が必要なのか疑問です」と次のように話す。

「味もしない経管栄養剤を、毎日決まった時間に、食べる楽しみもなく流し込まれる様子を見ていると、本当にこの治療は必要なのかと思います。しかも、1人当たり年間約500万円かかり、それは国が負担しています。自分が寝たきりや重度の認知症になったとき、ものを食べられなくなっても、チューブから栄養を補給し、生き続けたいのか、自然な老衰である『平穏死』を選ぶのか、元気なうちに決めておくことが必要ではないでしょうか」