普及に向けた最大の課題は認知と法整備

日本国内でも着実に普及が進んでいるものの、2018年の市場規模は、世界全体で約1000億円に達している一方で、日本の市場規模は約5億円にも満たないとされている。海外では、賞金総額が約28億円にも及ぶ大会も開催されており、それと比べるといかに日本の市場がいかに小さいかが分かる。

日本でeスポーツが普及しきれていない要因の一つが、認知度の低さによるものだ。NRIが10代~60代の男女計約2000人を対象に実施した「情報通信サービスに関するアンケート調査」(2018年)によると、全体では「eスポーツという言葉を聞いたことがある」のは約半数に過ぎず、さらに「eスポーツという言葉を知っている」のは約20%にとどまる(図表3)。ゲームが身近にある若年層では比較的認知が高いが、年齢層が上がるにつれ認知度は下がる傾向にあり、高齢層の認知度は非常に低い。

また、eスポーツという言葉を知っていても、あまりeスポーツがスポーツとして受け入れられていないのが現状だ。例えば「これまで認められていなかった才能が認められることは良いこと」などの肯定的な意見もある一方で、「ゲームを“スポーツ”と呼ぶことに違和感」や「汗水流して努力しているアスリートと同じとは思えない」といった否定的な意見も多く見られる。日本では、「スポーツ」というと身体運動を伴うものと捉えられがちであるが、本来の「sport」には「楽しむこと・競い合うこと」といった意味もあり、そうした言葉の理解や受け止め方の違いによるところも大きい。

日本でeスポーツが普及しきれていないもう一つの大きな要因が法律上の問題である。eスポーツに大きく影響する法律が、刑法(賭博及び富くじに関する罪、以下賭博罪)と風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(以下、風営法)の2つである。

賭博罪では「偶然の勝敗により、財物・財産上の利益の得喪を争うこと」が禁止されており、eスポーツの大会において参加費を徴収し、賞金を提供した場合、これに該当する恐れがある。これが賞金の高額化や、収入が限定されるため大会の開催を妨げる要因となっている。風営法についても同様で、「ゲーム機を設置し、店舗を構えて営業する」場合には、ゲームの結果に応じて景品を提供することが禁じられており、大会の開催を妨げている。

実際に2018年1月26日~28日にかけて日本で開催された格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2018」では、法的な理由により参加費を無料にせざるを得ず、1億円を超える赤字を計上した(通常ラスベガスで開催されるEVOでは、5000円~1万円の参加費を徴収している)。

「EVO Japan 2018」は、アメリカ以外で開催された初の「EVO」であり、配信の視聴者は世界全体でのべ1000万人を超えるほどの大きな大会である。こうした大規模大会が、法律上の問題が足枷となり開催できないことは、日本のeスポーツ産業にとって大きな損失であり、eスポーツに関わる法律上の課題の解決が業界全体から強く望まれている。