なにをお探しですか?を上回る聞き方
さらに、坂本さんには、接客を続けるなかで身に付けたコツがある。それは、「なにを」ではなく「なぜ」を問うことだ。
「『なにをお探しですか?』とお尋ねした場合、お答えが『ブラジャーです』だとしたら、『ワイヤーが入っているタイプでしょうか? 入っていないほうがお好みですか』と、商品を絞っていくやりとりになります。でも、『黒のブラジャーを探しているんです』と言われたときは、『さようでございますか。もうお色を決めていらっしゃるんですね。黒がお好きなんですか』と理由を尋ねます。そうすると、『この間買った服に合わせたくて』とか『娘の大事な日に着るために思い切ってワコールの店に来たんです』など、ご来店いただいた背景を知ることができます。お客様との距離がぐっと縮まって、さまざまなお話ができるようになります」
顧客のニーズは、感性か機能性か
「なぜ」を聞くことで、実際は黒でなくても合う商品があったりと、店側の薦められる商品の幅が広がるというメリットもあるという。
「お伺いしたときに、『やっぱりこのピンクがかわいいですよね!』とか『このレースが素敵なのでこのブランドが好きなんです』とおっしゃるお客様は、より感性を重視されます。逆に『締め付け感がなくて楽ですね』『肌ざわりがすごくいい』などのご感想を述べられるお客様は、より機能性を重視されます。色やデザイン、着心地など、お客様のニーズは違います。だから“なぜそれを着てみたいと思われたのか”をつかむことができると、その後にご来店いただく際にも、商品をお薦めしやすくなるんです」
下着を頻繁に買い替える客は少ないとはいえ、顧客ごとに購入履歴や好みをリスト化して、次の接客時に備えて覚えるのだという。