卓越した数字を残している営業職の女性は、どんな工夫をしているのか。今回、4社の敏腕セールスに「話す&聞く」技術を聞いた。第2回は、ワコールの坂本真季さん――。

※本稿は、「プレジデントウーマン」(2018年10月号)の掲載記事を再編集したものです。

担当は首都圏の11店舗。接客に調整役にと奔走中

●ワコール 卸売事業本部 百貨店販売統括部 首都圏担当店 販売二課リーダー
坂本真季(さかもと・まき)さん

1998年に入社し、東京都内にある百貨店の、ワコールの婦人向け下着売り場で接客担当(ビューティーアドバイザー、以下BA)を続けてきた坂本真季さん。2011年から2店舗で店長を経験した後、17年には首都圏の百貨店11店舗をサポートするリーダーに昇格した。現在の業務内容はBAと同社の百貨店営業担当者との意思疎通を図ったり、百貨店側と営業担当者の交渉時に立ち会ったりするほか、自らも11店舗の店頭に立ち、接客サポートを行うこともある。リーダーは首都圏でもたった2人なので、担当店舗を回る忙しい日々を送っている。

仕事服は?●黒の上下スーツは制服です。インナーやタイツは自前で、弊社商品を着用することが多いです。今日のインナーのレースのブラウスも弊社のワコールディアの商品ですが、手洗いできてすぐ乾き、シワにもならないので重宝しています。

扱う商品が自分と同じ女性向けとはいえ、下着は直接肌に身に着けるもの。採寸やフィッティングで来店者の体に触れることもあるため、接客には細心の注意が必要になる。同社のBAは入社後店舗に立つ前にみっちりと接客研修を行い、また店舗でも先輩や店長らのアドバイスを受けながら接客の腕を磨いていくのだという。

もともと人と話をするのは好きなほうだった坂本さんだが、入社当初からスムーズな接客ができたわけではない。緊張するというよりは、接客時に沈黙になるのが嫌で、つい話をしすぎていたという。

「購入する商品が決まっている方もいれば、商品は決まっていないものの相談して買いたいという方、なにかいいものがあるかのぞきに来てくださった方など、店舗にはさまざまなお客様がご来店されます。急いでいる方や1人でゆっくり考えながら商品を選びたいという方にこちらが一方的に長々と説明をしても、イライラさせてしまうだけです。お客様の立場に立った接客が必要だと、当時の店長や先輩方に教えてもらいました」

急いでいる客には「なにかお探しですか」と積極的に声をかけ、ぶらりと来店しただけという客には「失礼いたしました。どうぞ奥までご覧ください。必要でしたらお声がけください」と伝えて遠くから見守る。それだけでも客にとっては選びやすい店舗になるという。

「話すときのスピードや声のトーンも、お客様によって少し変えます。例えば、ご年配のお客様の場合には、ゆっくりとしたペースで、大きめの声で聞きとりやすいようにするなど、ちょっとしたことですが、気を付けています」

なにをお探しですか?を上回る聞き方

さらに、坂本さんには、接客を続けるなかで身に付けたコツがある。それは、「なにを」ではなく「なぜ」を問うことだ。

「『なにをお探しですか?』とお尋ねした場合、お答えが『ブラジャーです』だとしたら、『ワイヤーが入っているタイプでしょうか? 入っていないほうがお好みですか』と、商品を絞っていくやりとりになります。でも、『黒のブラジャーを探しているんです』と言われたときは、『さようでございますか。もうお色を決めていらっしゃるんですね。黒がお好きなんですか』と理由を尋ねます。そうすると、『この間買った服に合わせたくて』とか『娘の大事な日に着るために思い切ってワコールの店に来たんです』など、ご来店いただいた背景を知ることができます。お客様との距離がぐっと縮まって、さまざまなお話ができるようになります」

顧客のニーズは、感性か機能性か

「なぜ」を聞くことで、実際は黒でなくても合う商品があったりと、店側の薦められる商品の幅が広がるというメリットもあるという。

「お伺いしたときに、『やっぱりこのピンクがかわいいですよね!』とか『このレースが素敵なのでこのブランドが好きなんです』とおっしゃるお客様は、より感性を重視されます。逆に『締め付け感がなくて楽ですね』『肌ざわりがすごくいい』などのご感想を述べられるお客様は、より機能性を重視されます。色やデザイン、着心地など、お客様のニーズは違います。だから“なぜそれを着てみたいと思われたのか”をつかむことができると、その後にご来店いただく際にも、商品をお薦めしやすくなるんです」

下着を頻繁に買い替える客は少ないとはいえ、顧客ごとに購入履歴や好みをリスト化して、次の接客時に備えて覚えるのだという。

「やわらかな笑顔で、話しかけやすい」というのも、社内での坂本さんの評価の1つだ。リーダーとなった現在は、接客だけでなく、社内の百貨店営業担当者とBAの間で生まれがちな溝を埋める役目も担う。

「営業担当者は男性が多く、論理的に数字を出して話をすると、BAにはきつく聞こえることがあります。そういうときは間に入って、『その言い方は受け取る側が嫌な気分になる』といったことを伝えます。一方で、私もこの立場になってから、営業担当者の業務の過酷さも理解しました。その点はBAに説明して、お互いが気持ちよく仕事ができるように心がけています」

接客でも社内調整でも、相手に緊張感や威圧感を与えず、聞きたいことを察知して寄り添う。それが坂本さん流の対応術と言えるだろう。

▼Questions
(1)部下への接し方は?
入社当時に言われた「お客様の立場に立った接客」と「言われたことはなによりも優先して動く」ということを伝えていますね。ただBAは接客のプロですから、「こうしなさい」ではなく、「こうしたらもっとよくなりますよ」と、ソフトに伝えるようにしています。
(2)必携のGOODSは?
採寸用のメジャーです。サイズをきちんと把握しないといいご提案はできませんから、必ずカバンに入れています。
(3)ストレス解消法は?
西武ライオンズファンなので、野球観戦に行ったり、店長たちと飲みに行くと、みなさん情熱家なので、元気をもらえます。ちょっとしたときにはミント系タブレットでリフレッシュしています。
(4)学ぶときには?
弊社の創業者の本をよく読みます。なかでも写真の『塚本幸一 わが青春譜』は、塚本の人となりが書いてあり、読みやすいと思います。自分は生かされているという感謝の気持ちとか、仕事で迷ったときや、できないとくじけそうになったときに勇気づけられる言葉などが多く、たびたび読み返しています。