職歴欄に書かれている内容を疑え
履歴書の職歴欄は、その人の人生や価値観を如実に表している。この部分を適当に眺めるのは社長としてやってはいけない。
中国地方のあるメーカーの代理人として、労働組合との団体交渉に出たときのことだ。社員は「パワハラに遭った」などと根拠のないことをまくしたてるように話していた。こちらとしては、相手の主張に対抗できる効果的な反論を考えられずになんとも困った。
そのとき相手から、直前まで勤務していたというA社の話がふと出た。A社はとても理解があったということだった。その日はいったん話を終えたのだが、なんとなくA社の話に違和感があったので調べてみた。すると、A社はその社員が言うよりもずっと前に倒産していたことが発覚した。
次の団体交渉では、社員にまず「履歴書にあるA社で勤務していたことで間違いがないか」と確認した。団体交渉が有利に展開して自信を持っていた社員は、「間違いない」と言って話を続けた。話が終わったところで、私はA社が倒産していたことを示す資料を突きつけた。「履歴書に事実に反することを記載して否定もしない人の発言の信用性はいかがなものか」と切り返し、交渉の潮目を変えた。社員は青ざめたままで必死になって取り繕ったが、あとの祭りだ。双方が譲歩する形で早期に団体交渉がまとまった。
「職歴欄は必ずしも事実だけではない」という戒めとなる事案だった。
「一身上の都合」の内容を疑え
職歴欄を見て、あまりに短期間で転職している人には気をつけたほうがいい。「転職してスキルアップをしたい」という価値観を持っている人もいるだろうから、転職をしていること自体が問題というわけではない。ただ、入社して数カ月で退職を繰り返していたりする人は、本人にも幾ばくかの問題があると考えるのが普通だろう。仮に会社ともめて退職したとしても、履歴書には「一身上の都合により退職」としか表記されない。
ある介護事業所から相談があった。対象となる社員は、介護事業所を転々としていた。社長は「とにかく人が欲しい」ということで、退職理由の確認もしないまま採用してしまった。当初はなんら問題なく勤務していたが、3カ月の試用期間が過ぎると雰囲気がガラッと変わってきた。他の社員に威圧的な態度をとるようになり、「従う者」と「敵対する者」に分けるようになった。社員が分断され、人間関係に疲れた退職者が出てくるようになった。憤った社長は勢いでその社員を解雇した。すると、その社員は直ちに内容証明で要求を突きつけてきた。結果として、解雇を撤回して1年分の賃金相当額を支払って退職してもらうことになった。
このケースでは、解雇してからのその社員の手際があまりにスムーズだったのが気になった。まるで自分が解雇されることがわかっていたかのようである。おそらく、その社員は過去にも同じようなトラブルで争ったことがあったのだろう。このケースでも社長がもう少し履歴書の確認に慎重であれば別の選択があったはずだ。