テレビ東京「ワールドビジネスサテライト(WBS)」のキャスターを務めている大江麻理子さん。「放送終了後、深夜に帰宅しても神経が高ぶったままなので、すぐには眠れず、入浴しながら小説、雑誌、漫画を読む」といいます。どんな本を読んでいるのでしょうか。じっくりうかがいました――。

※本稿は、「プレジデントウーマン」(11月号)の特集「大人の教養『本&映画』ガイド」の掲載記事を再編集したものです。

テレビ東京「ワールドビジネスサテライト(WBS)」(平日23時~)でメインキャスターを務める大江麻理子さん(写真提供=テレビ東京)

ちゃんと話を聞くために先入観を持たない

モモのような人間になりたい――。私の読書人生は、ミヒャエル・エンデ作の『モモ』から始まっています。小学校低学年の頃、叔父の家にこの本があり、夢中になって読みました。

主人公のモモのもとには話を聞いてもらいたいと、どんどん人が集まってくるので「どうして彼女にはそんな力があるのだろう」と幼かった私は疑問に思ったのです。モモは特に質問するわけでもなく、ただ大きな黒い目を見開いて注意深く聞くだけ。まさに“聞き上手”。モモは相手の言葉を真剣に受け止めているので、だからみんな話したがるのだと、年を重ねてから理解できるようになりました。

今、私はキャスターとして、取材対象者から話を聞き出して、視聴者の方々に伝えるという役目を担っていますが、仕事人としての理想もやはりモモ。インタビューは、ややもすると「多分こうだろう」と想定しておいた答えを引き出すものになりがちです。でも、そうしたくはない。取材相手と1対1で対峙(たいじ)したとき、「この人が本当に話したいことは何なのだろう」というスタンスでいると、相手の心の壁みたいなものがなくなることが多いのです。こちらの勝手な先入観で話をしない、できる限り“モモ方式”でいこうと思っていますね(笑)。

時間ができるとページをめくり、「人の話をちゃんと聞けているのか」と原点に立ち戻らせてくれる本。私のそばにずーっとモモがいる感じです。ミヒャエル・エンデは、残念なことに、私が高校生のときに亡くなりました。ご存命だったら、ぜひお話をうかがいたかった。もちろん、モモのように(笑)。

私は3人きょうだいで、子どもたち一人一人に毎月絵本が届くような、本が身近にある環境で育ちました。毎晩眠る前には母が読み聞かせをしてくれたものです。そのおかげで読書が習慣になったのだと思います。

タイトルを見るだけで襟を正す本

『モモ』と同様に、もう一冊、私の原点ともいうべき本に、中島義道さんの『哲学の教科書』があります。これまで10回以上引っ越しを繰り返しましたが、必ず手元にあるのがこの本。タイトルを見ただけで「あ、ちゃんと生きなきゃ!」と襟を正す気持ちになるのです。

この本に書かれている「人間は勝手に明日があると思っているが、明日の朝、布団の中で目覚めるとは限らない」というニュアンスのフレーズに、当時20歳の私は衝撃を受けました。そのおかげで“死と向き合う”ことも学びました。死を考えることはネガティブなことではありません。裏を返せば「今日、自分はどうあるべきか」と、目の前の“生”と向き合うということなのです。